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百物語 第八十四話
娘のお百夜まいり
山形県の民話
むかしむかし、ある村の寺は、たいへんよくきく魔除け(まよけ)のおふだをくれる事で知られており、遠くからも多くの人がおとずれました。
ある夏のタぐれどき、一人のきれいな女の人が寺の門をたたきました。
「魔除けのおふだをもらいにまいりました。どうぞ、一枚わけてください」
ですが、あいにくとその晩は和尚(おしょう)さんが町に出かけていたので、寺の小僧(こぞう)は気の毒に思いましたが、明日の晩にまた来るようにと帰ってもらいました。
さて、和尚さんが帰って来て小僧からその話をきき、
(そんなに美しい女が、この村にいたのかな?)
と、明日の晩を楽しみに、ふとんに入りました。
その夜のこと、和尚さんの夢の中に本堂(ほんどう)の仏さまが現われて、
「おふだをもらいに来る娘は、和尚を食べに来た裏山にすむバケモノじゃ。百夜通わせて弱らせてから、おふだをくれてやるとよい」
と、言ったのです。
タ方になると、昨日の美しい女がやって来ました。
「和尚さまのおふだを、分けて下さい」
和尚さんが門のすきまからのぞいて見ると、今までみた事もないほど美しい娘でした。
和尚さんはうっかり門を開けそうになりましたが、仏さまの言葉を思い出していいました。
「すまぬが、わしのふだは貴重(きちょう)な物。お前さまには百夜の願をかけねば、やるわけにはいかんぞ」
すると娘は、悲しそうな顔をして帰って行きました。
美しい娘はそれから毎日タ方になると、山門まで願をかけに訪ねて来ました。
夏がすぎ、秋も終わる頃、美しい娘は和尚さんがかわいそうになるほど弱ってきました。
さて、いよいよ百日目になりました。
和尚さんと小僧は悪魔退散(あくまたいさん)のおふだを山門のあちこちにはると、本堂でお経を読み始めました。
山門にやって来た娘は悪魔退散のおふだを見るとブルブルとふるえだし、たちまちまっ黒なバケモノのすがたになって山門を打ちやぶると、寺の中に入ってきたのです。
その時、天から一条の光が境内(けいだい)の池に差し込むと、水しぶきをあげて竜がとび出して、バケモノと、とっくみ合いの戦いを始めたのです。
たいへん力の強いバケモノでしたが、お百夜まいりで弱っていたので、最後には竜にたおされて池にひき込まれてしまいました。
その事があってから、この寺を竜徳寺(りゅうとくじ)と呼ぶようになったのです。
おしまい
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