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百物語 第八十七話
おりょう坂
茨城県の民話
むかしむかし、ある村に、おりょうという名の、たいへん美しい娘がいました。
おりょうは小さいころから、糸つむぎをするのが毎日の仕事でした。
ある日の事、買い物に出たおりょうは、夜になっても帰ってきません。
親や近所の村人たちが探しましたが、とうとう見つける事が出来ませんでした。
何日たっても見つからないので,おりょうはバケモノに食われてしまったんではないかと、村人たちは思いました。
それから半年ほどすぎたある雨の夜、山の坂道でおりょうの姿を見たという村人が現れました。
「あれは、どう見てもおりょうだ。まちがいねえ。だが声をかけても何にも言わなかったし、顔色も悪かったな」
それを聞いた、一人の若者が、
「よし、おれがたしかめてやる」
と、言って、鉄砲(てっぽう)をもってその場所に出かけました。
次の日の朝、その若者が帰って来ないという事で、村はまた大さわぎになりました。
村人がその場所に行ってみると、若者や女のすがたはなく、若者の鉄砲だけが落ちていました。
その夜は、村一番の力持ちが、そして次の夜は、村一番の腕のいい猟師が出かけましたが、みんな帰ってきません。
そこで村の若者たちは集まって、相談をしました。
「これは、一人で行くのはあぶねえ。みんなで行ったほうがよいぞ」
そしてその夜は、若者たち数人で出かけることにしました。
そして山の坂道に行ってみると、おりょうらしい女が、あんどんの明かりの下で糸をつむいでいるではありませんか。
若者の一人が、
「もし、おりょうさんでは?」
と、声をかけましたが、返事がありません。
何度声をかけても返事をしないので、女の顔を見ようと近づいた若者の一人がとつぜん、
「これは、おりょうのバケモノだ!」
と、さけぶなり、
ズドーン!
と、鉄砲をうったのです。
すると女の姿もあんどんの明かりも、とつぜん消えてしまったではありませんか。
ところが、しばらくすると、
「アッハッハッハ。アッハッハッハ」
と、高笑いとともにその女が現れて、また何事もなかったように糸をつむいでいるのです。
「まちがいない! これはバケモノだ!」
「いままでの三人も、このバケモノにやられてしまったんだ」
「しかしどうすればいいんだ? 鉄砲も役にたたんでは」
「まてよ、あのあんどんの明かりがどうも変だ。もしかして、あれがバケモノの正体では?」
そう言うと、一人の若者があんどんの明かりをねらい、
ズドーン!
と、鉄砲をうちました。
「ギャーッ!」
けたたましいひめいが聞こえたかと思うと,女の姿もあんどんの明かりも消えてしまいました。
そしてよく見ると、女のいたあたりに、何やら大きな黒いかたまりがあるのです。
若者たちがおそるおそる近付いてみると、そこにはなんと、ウシのような大きさのガマガエルが、片目をうたれて死んでいるではありませんか。
バケモノの正体は、このガマガエルだったのです。
その後、この村にバケモノが出ることはなくなりましたが、村ではこの山の坂道を、「おりょう坂」とよぶようになったという事です。
おしまい
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