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日本のわらい話 第43話
風呂のぬか団子
広島県の民話
むかしむかし、田舎(いなか)のお百姓(ひゃくしょう)さんが、初めて江戸(えど→東京都)へ出てきました。
「ごめんなさい。今晩、泊めてください」
お百姓さんが、宿屋の前でそう言うと、
「はい、ただいま。さあ、どうぞどうぞ」
宿屋の女中(じょちゅう)さんは、お百姓さんを部屋に案内しながら言いました。
「ご飯を先にしますか? それともお風呂にしますか?」
「へえ、お風呂に入れてもらいましょう」
「では、こちらへ」
お百姓さんは女中さんに案内されて、お風呂場へいきました。
お風呂場には、ぬかと塩がおいてありました。
むかしは石けんも歯ブラシもなかったので、ぬかで顔を洗い、塩で歯をみがいたのです。
でも、このお百姓さんは、そんな事は知りません。
「はあ、これはきっと、ぬかダンゴを作って食べろというんだな」
そう思い、ぬかに塩を入れて水でねり、ダンゴを作って食べました。
「こりゃうまい。こいつは、なかなか上等なぬかじゃ」
お百姓さんは、ぬかダンゴをすっかり食べてしまいました。
さて、お風呂からあがって部屋にもどると、女中さんがご飯を持ってきました。
それを見て、お百姓さんが言いました。
「おら、お風呂でぬかダンゴを食ったから、もう、お腹がいっぱいじゃ」
「えっ? ぬかダンゴ?」
「ああ、とてもうまかったよ」
女中さんは、ビックリしました。
でも、お百姓さんに恥(はじ)をかかせてはいけないと思って、そのままご飯をさげました。
(もしかしたら、明日の朝も顔を洗うときに、ぬかを食べてしまうかもしれない)
親切な女中さんは、ぬかと塩のかわりに、おもちをおいてあげました。
さて次の朝、お百姓さんがお風呂場にいってみると、どうでしょう。
ほかのお客さんは、ぬかを手ぬぐいにつつんで顔を洗っているのです。
「なんと、ぬかは顔を洗うもんだったか。こりゃ、とんでもない恥(はじ)をかいてしまった」
さて、お百姓さんが顔を洗おうとすると、目の前におもちがおいてあります。
「よし、今度はまちがわないぞ」
お百姓さんはおもちを手ぬぐいにつつんで、ごしごしと顔を洗いました。
するとおもちがとけて、顔にベタベタとつきました。
それでもお百姓さんは、うれしそうに言いました。
「やれやれ、今日は恥をかかずにすんだわい」
ところが顔は、おもちだらけです。
それを見た女中さんは、とうとう腹をかかえて大笑いしました。
おしまい
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