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百物語 第九十五話
なわ
東京都の民話
むかしむかし、江戸(えど→東京都)に、池城新左衛門(いけしろしんざえもん)という侍(さむらい)がすんでいました。
ある晩、友だちをたずねていってのかえり道、新左衛門が、ちょうど墓場(はかば)にさしかかったとき、
「あっ」
と、思わず声をあげました。
黒い物が、道の上にころがっているのです。
よく見ると、どうやら人間のようです。
「何者だ?」
声かけて近よって見ると、それは手も足もなわでしばられた女の人でした。
「このようなところで、なにをいたしておる?」
女はかすれた声で、苦しそうにこたえました。
「わたくしは、この世の者ではござりませぬ」
「なに、すると死人か?」
「はい、夫を殺した罪(つみ)で、手足をしばられたまま土の中にうめられた者でございます。このようにしばられたままでは、地獄へもまいれませぬ。どうぞ、わたくしのこのなわをほどいてくださりませ」
「・・・・・・」
思いもよらないたのまれごとに、新左衛門がためらっていると、女はなみだ声で、
「わたくしが毎晩ここに現れて、いくらお願いもうしても、どなたさまも逃げてしまわれます。それでいまだに、なわのままで苦しんでおります。お侍さま、どうぞ、このなわをほどいてくださりませ」
話しを聞くうちに、新左衛門はこの女の人があわれに思えてきました。
「刑(けい)をすましたからには、そなたに罪はないはずじゃ。そなたの望みをかなえてやろう」
新左衛門が女の人のなわをほどいてやると、女の人は、
「ありがとうございます。ご恩はけっして忘れませぬ」
と、言って、かき消すように消えてしまいました。
それから、数年後のこと。
新左衛門はお家騒動(おいえそうどう→けんりょくあらそい)にまきこまれて、責任を取って手足をなわでしばられたまま、うち首になってしまったのです。
するとそこへ、どこからともなく女のすがたが現れて、首のない新左衛門の死体のなわをほどくと、そのままスーッと消えてしまったという事です。
おしまい
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