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百物語 第九十六話
イノシシのようなネコ
和歌山県の民話
むかしむかし、紀州の国(きしゅうのくに→和歌山県)の熊野(くまの)の山に、大きなほら穴がありました。
いつのころからか、このほら穴には、トラに似たけだものが住みつくようになりました。
そのけだものは野に出てキツネやタヌキをつかまえていましたが、ときには村へやってきて、村の人が飼っているイヌをおそうこともあります。
けだものは人間を見ても逃げようとはせず、反対に人間を追いかけてくるしまつです。
村の人たちもこまってしまい、なんとかしようと猟師(りょうし)たちを集めました。
ところが、けだものの足は大変早く、猟師が鉄砲をかまえたとたん逃げだし、いつのまにか姿をくらましてしまうのです。
そこで思いきって、すみかのほら穴へ行って、退治しようという事になりました。
しかし、鉄砲をうちそこなって大あばれされたら、みんな殺されてしまうかもしれません。
さんざん知恵をしぼった結果、猟師たちはワナをしかける事にしました。
竹で大きな串(くし)と輪(わ)をたくさんこしらえると、それに鳥もち(→トリモチなどの樹液からとった、ネバネバのもの)をぬって、ほら穴の前に置きました。
そして万が一のために、鉄砲を持った猟師たちがほら穴を取り囲んでいます。
人のけはいに気づいたのか、けだものはなかなか出て来ません。
それでも夕方近くになって、お腹をすかせたけだものがようやく顔を出しました。
「よし、出てきたぞ」
みんなは小声で言いあうと、ゆっくりと鉄砲をかまえます。
さすがのけだものも、ワナが仕掛けてあるとは気がつかずに、ワナの輪に入りました。
そのとたん輪がしまり、けだものが倒れました。
けだものは輪をはずそうともがきますが、そこらじゅうにさしてある竹串の鳥もちが体にくっつき、いよいよ動けなくなりました。
「ギャーオーーッ!!」
けだものは、たまらず悲鳴をあげます。
「それっ! やっつけろ!」
待ちかまえていた猟師たちがいっせいに飛び出し、ワナにかかったけだものを力いっぱいなぐりつけました。
「フギャーーッ! ギャーオーーッ!!」
すさまじい声が山にひびきわたり、けだものは死にものぐるいであばれます。
しかし、さすがのけだもの、こうなってはどうする事も出来ません。
やがて頭から血を流して、動かなくなりました。
「やったぞ!」
みんながホッとして、倒したけだものをながめると、なんとそれは、イノシシほど(イノシシの体長は、大きいもので一メートル以上)の大きさのあるネコだったのです。
「こんな大きなネコなんて、見たことがない」
「それにしても、どうしてこんなにでっかくなったのか」
猟師たちがほら穴の中を調べててみると、タヌキやキツネの骨にまじって、人間の骨もいくつか出てきたという事です。
おしまい
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