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日本の恩返し話 第25話
サルの一文銭
鳥取県の民話
むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
おばあさんが機織(はたお)りで木綿(もめん)をつくり、おじいさんがそれを町へ売りに行ってくらしていました。
ある日、おじいさんが木綿を町へ売りに行っての帰り道、どこからともなく、
「ウキー、ウキー」
と、サルの鳴き声がしてきました。
あたりを見まわしてみると、向こうの木の枝に母ザルがいて、猟師(りょうし)が鉄砲(てっぽう)でねらっているところでした。
母ザルは、猟師に手を合わせて、
(助けてください)
と、いうようにおがんでいます。
でも、猟師はそんなことはおかまいなしに、今にも鉄砲の引き金を引こうとしたとき、おじいさんは母ザルを助けようと、
「ハックション!」
と、大きなクシャミをしたのです。
すると、そのクシャミにおどろいた猟師の鉄砲がそれて、鉄砲の玉がおじいさんの肩に当たったのです。
「わあ、わあ、おらが悪いんじゃないぞ! いきなりクシャミをしたお前が悪いんだ!」
ビックリした猟師はそう言うと、あわてて逃げていきました。
さて、鉄砲にうたれたおじいさんが、肩を押さえながらうずくまっていると、どこからともなく子ザルたちが現れてきて、おじいさんの傷口をなめたり、薬草をもんではりつけたりして、おじいさんをかいほうしてくれました。
そして手車(てぐるま)をくんでおじいさんを乗せると、そのままサルの家へ連れて行ったのです。
「先ほどは危ないところを助けていただき、ありがとうございました」
母ザルはそういって、サル酒(さるざけ)や果物(くだもの)など、次から次へとごちそうを出してくれました。
すっかりごちそうになったおじいさんが、
「親切にしてくれてありがとう。じゃが、おばあさんが心配しているから、もう帰るよ」
と、いうと、母ザルは一文銭を一つさしだしました。
「これはサルの一文銭といって、世にも大切な宝物ですが、命(いのち)を助けてくださったお礼にさしあげます。これをまつっておくと、金持ちになれます」
そしてサルたちは、おじいさんを手車に乗せて、家まで送ってくれたのです。
さて、それからおじいさんは母ザルに言われたように、一文銭を神棚(かみだな)にまつってみますと、不思議な事におばあさんの機織りはどんどんはかどりますし、それをおじいさんが売りに行くと、高い値段でどんどん売れるのです。
やがて、おじいさんとおばあさんは大金持ちになりましたが、ある日の事、大切なサルの一文銭がなくなってしまったのです。
おじいさんとおばあさんは、サルの一文銭を探しましたが見つかりません。
そこでおばあさんは、家で飼っているタマという名のネコを呼んでいいました。
「タマよ、サルの一文銭を三日のうちにさがしておいで。さがして来てくれたら、おいしいごはんをたんと食べさせてやろう。でも、さがし出せなかったら、これだよ」
と、刀をぬいて見せたのです。
ビックリしたタマはあわてて家を走り出て、すぐに一匹のネズミをつかまえました。
そして、ネズミにむかって言ったのです。
「ネズミよ、うちの宝物が無くなった。三日のうちに見つけて来い。見つけて来たら助けてやる。もし見つけて来ないと尻尾まで食ってしまうぞ」
ビックリしたネズミは食べられては大変と、家のあちらこちらをさがし回って、ついにサルの一文銭をさがし出しました。
そうして、やっと隣の家のタンスの中にあるのを見つけて、それを取り出して来てタマに渡したのです。
タマは喜んで、それをくわえておじいさんに渡しました。
おじいさんも、おばあさんも、タマも、ネズミも、みんな大喜びです。
そしておじいさんとおばあさんの家は、いつまでも栄えたと言うことです。
おしまい
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