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日本のふしぎ話 第42話
みそ買い橋
岐阜県の民話
むかしむかし、飛騨の国(ひだのくに→岐阜県)の乗鞍岳(のりくらだけ)のふもとに、沢田(さわだ)という村があって、そこに長吉(ちょうきち)という正直な炭焼きが住んでいました。
ある日の晩、長吉の夢にひげの長い仙人(せんにん)のような老人が現れて、
「これ、長吉よ、高山(たかやま)の町へ行って、みそ買い橋の上に立っていてみよ。たいそうよい話が聞けるぞ」
と、教えてくれたのです。
(よい話って、なんですか?)
長吉がよく聞こうとしたところで、目がさめました。
(たとえ夢にしても、せっかく教えてくれたんだから、とにかく行ってみよう)
長吉は、まだ暗いうちに起きて炭をせおうと、高山の町へ出かけて行きました。
町に着いて炭を売ってしまうと、長吉はみそ買い橋の上に行って立っていました。
みそ買い橋という橋の名まえは、橋のたもとにみそ屋があったのでついた名前です。
どこにでもあるような小さな木の橋で、長吉はさがし当てるのに苦労しました。
さて、長吉は夜になるまで立っていましたが、何もよい話は聞けませんでした。
二日目も、三日目も、しんぼう強く一日中、立っていましたが、やはり何も起こりませんでした。
みそを買いに来る町の人や通りすがりの旅の人が、ふしぎそうに長吉の顔をのぞきこんでは、そそくさと行ってしまうだけで、話しかけてくれる人はいません。
こうして、四日がたちました。
長吉も、さすがに家の事や仕事の事が心配になってきました。
「今日もだめか。ただ立っていればよいというわけだったが、ほかに何かあったかな?」
五日目も、長吉が一人でぼんやり待っていると、みそ屋の主人がそばに寄って来て、
「毎日そこに立っていなさるが、どうなさったのじゃ?」
と、たずねてきました。
長吉が夢の話をして、橋の上に毎日立っているわけを話すと、みそ屋の主人は大笑いして、
「わははははは。バカ正直にもほどがある。つまらん夢の事など、本気にしなさるな」
と、言いました。
それでも長吉は、
「笑いなさるが、おらはたとえ夢でもバカにしてはならんと思っておる。仙人が出てくるなどめったに見ん夢だし、せっかく教えてくれたもんな」
と、大まじめに言い返しましたから、みそ屋の主人はすっかりあきれてしまいました。
ですが、
「じつはな、わしもこの間、おかしな夢を見たんじゃ。ひげの長い仙人のような老人が現れてな、なんでも乗鞍岳のふもとの沢田とかいう村に、長吉とかいう男がおってな」
と、自分の見た夢のことを話し始めました。
これを聞いた長吉は、これこそ夢の中で老人が教えてくれたよい話にちがいないと思って、
「おらが、その沢田の長吉だ!」
と、言い出しそうになるのをがまんして、主人の話を聞きました。
「その長吉の家のうらに、大きなマツの木があるから、その根もとをほってみよ、宝物が出るぞと、その老人が教えたのじゃ。わしは沢田なんて村には行ったこともないし、たとえ知っとっても、そんなバカげた夢の事など信ずる気になれん。お前さんもいいかげんにして、帰りなさったほうがいい」
と、主人はくわしく長吉に話して聞かせました。
「それはすまんこって。では、さいなら」
長吉はあいさつもそこそこに、いそいで村に飛んで帰りました。
家につくと、すぐにクワを持ち出してきて、うらの大きなマツの木の根もとをほってみました。
すると大きなかめが三つも出てきて、その中に金銀やらサンゴなどの宝物がいっぱいつまっていたのです。
長吉はそのおかげで、たちまちたいへんな長者になって、いつまでも楽しくくらしたという事です。
おしまい
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