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日本の恩返し話 第27話
オオカミの恩返し
大分県の民話
むかしむかし、ある山の中の一軒家(いっけんや)に、お母さんと息子がくらしていました。
二人はひどい貧乏だったので、お母さんも息子も、毎日毎日働きづくめです。
ある日のま夜中の事、お母さんが急の病(やまい)にかかって苦しんでいました。
医者は、山の向こうの里にしかいません。
それに山にはたくさんのオオカミがいるので、夜になると誰も外に出ようとはしません。
ですが息子は、お母さんの病気を治したい一心で出かけました。
「お願いだ。オオカミよ、どうか出ないでくれ」
息子は神さまにいのりながら、山道を急ぎましたが、やっぱりオオカミは出てきたのです。
一匹の大きなオオカミに、まっ赤な目でにらまれた息子は、
「オオカミよ、今だけはおらを食うのをかんべんしてくれ。おっ母さんが病気で苦しんでいるんだ。お医者さまを連れて来ないと。だからたのむ。見逃がしてくれ」
と、言いましたが、オオカミはこっちへ近づいてきます。
「たのむ。お医者さまを連れて来たら、きっと食われに来るから」
息子は泣いてたのみましたが、オオカミはどんどん近づいてきます。
オオカミの息が顔にかかったとき、息子は目をつぶって、オオカミに食べられるのを覚悟しました。
ですが、オオカミはかみついてきません。
(もっ、もしかして、見逃してくれたのか?)
息子がゆっくりと目を開けると、オオカミはやっぱり目の前にいます。
「ヒエーッ!」
息子は再び目をつぶりましたが、オオカミはその場にジッとしています。
(どうした? どうして、かみつかないんだ? なにか、言いたいことでもあるのか?)
不思議に思った息子がオオカミを見ていると、どうもオオカミの様子がおかしいのです。
舌をベロンと出して、口を大きく開けたまま、何度も頭を下げたり上げたりしています。
どうも、口にある何かをうったえている様子です。
息子がオオカミの口の中をのぞいてみると、キラリと光る物がありました。
「おや、のどに骨が刺さっとるぞ」
息子はオオカミののどに手を入れて、刺さっていた骨を抜いてやりました。
するとオオカミは何度も何度も頭を下げて、そのまま立ち去っていきました。
息子は何とか無事に、医者の家をたずねたのですが、医者はオオカミを怖がって、外に出ようとはしません。
そこで息子は薬だけをもらって、急いで山道を引き返していきました。
すると今度は、四、五十匹ものオオカミが息子に寄って来て、するどいキバを息子に向けました。
(ああっ、今度こそだめだ。おっ母さん。すまん!)
息子が覚悟を決めたその時、突然大きなオオカミが飛び込んで来て、取り囲んでいるオオカミに向かってほえました。
すると息子を取り囲んでいたオオカミたちは、一斉(いっせい)にどこかへ行ってしまいました。
この大きなオオカミは、さっき息子が骨を抜いてやったオオカミで、オオカミの大将だったのです。
息子はオオカミの大将に守られながら、無事に家に帰ることが出来ました。
次の朝、息子が家を出ようとすると、家の前にイノシシやウサギやキジなどの獲物(えもの)が、山のようにつまれています。
息子はそれをふもとの里に売りに行き、たくさんのお金を手にすることが出来ました。
また、お母さんの病気もすっかりよくなったので、二人は幸せに暮らすことが出来ました。
おしまい
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