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日本の恩返し話 第28話
万蔵とウマ
福島県の民話
むかしむかし、小坂峠(こさかとうげ→福島県)のふもとの村に、万蔵(まんぞう)という若い男がいました。
万蔵は心のやさしい正直者で、毎日のようにウマの背に荷物をのせて峠(とうげ)をこえていました。
ある日のこと、万蔵はかけごとで大負けをして、大事なウマまでとられてしまいました。
万蔵が夕暮れの峠の道をのぼっていくと、旅姿(たびすがた)の老人がしょんぼり石にすわっています。
「どうした? じいさん」
万蔵がわけをたずねると、
「実はお金をつかいはたしてしまい、朝から何も食べておらんのじゃ」
と、いうのです。
「そりゃあ、お気の毒だな。おいらにまかせておきな」
万蔵は自分が無一文なのも忘れて老人を元気づけると、知りあいの茶屋(ちゃや)へつれていきました。
「ここで二、三日、ゆっくり体を休めていくといい。お金はおいらがなんとかするから。なんでもたくさん食ってな。はやく元気になるんだぞ。なにも心配はいらないから」
万蔵は老人を茶屋の主人にたのんで、家に帰っていきました。
そして次の日の朝でかけてみると、またあの老人が、きのうの峠の石にすわっているのです。
でも今日の老人は、黒毛のたくましいウマを五頭もつれています。
「きのうのお礼に、このウマをさしあげよう。町へいって売りなされ」
老人は、にこやかにいいました。
「こんなに立派なウマを。・・・あ、あなたさまは、どこのだんなさまで?」
万蔵がたずねると、老人はニッコリわらって、
「この峠の上の、稲荷大明神(いなりだいみょうじん)のつかいの者じゃ」
と、いって、けむりのようにスーッと消えてしまいました。
万蔵は老人にいわれたとおり、五頭のウマをひいて町へいきました。
すると、
「なんともすばらしいウマを、五頭もつれ歩いている男がいる」
と、いう話がお城へ届いて、すぐに殿さまが五頭とも買いあげてくれたのです。
万蔵は思いがけない大金を手にしましたが、もうかけごとはしようと思いませんでした。
その大金で峠に稲荷大明神をまつるお堂(どう)をつくってそこにすみ、雪の日や雨の日などに、峠越えで苦しむ人たちを助けはじめたのです。
ところがある日のこと、お城からたくさんのさむらいがやってきて、
「お殿さまが買いあげたウマが、五頭とも消えてしまった。お前がぬすんで、ほかに売ったのではないのか?」
と、いうではありませんか。
万蔵は、どうしてよいかわからなくなりました。
こまった万蔵は、お城にでむいてふしぎな老人と出会ってからの事をぜんぶ話しました。
すると、万蔵の話をきいた殿さまは、
「お前をうたがってすまぬ。これはきっと、正直でやさしいお前に神がやどったのじゃろう」
と、万蔵をほめたたえという事です。
おしまい
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