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日本のふしぎ話 第44話
十数えてごらん
鹿児島県の民話
むかしむかし、ある年の大みそかの事です。
お日さまが貧しい坊さんに姿をかえて、とぼとぼ村を歩いていました。
大きな庄屋(しょうや)の家を見つけると、坊さんは家の戸をトントンとたたいて、
「何か、食べる物をめぐんでくだされ」
と、いいましたが、けちんぼうの庄屋は、
「こじき坊主にやるもんは、なんもない。とっとと失せろ!」
と、坊さんを追いかえしてしまいました。
坊さんはしかたなく、となりの貧しいおじいさんとおばあさんの家へいきました。
すると、
「これはこれは、たったいま、アワガユができたところです。さあ、どうぞお食べ下さい。一緒に年忘れをしましょう」
と、おじいさんは、坊さんを家の中にまねきいれてくれました。
けれど、おなべの中はお湯ばかりで、アワなど少しも見えません。
坊さんは、おばあさんにいいました。
「そのおなべを洗ってな、葉っぱを三枚入れて、もう一度煮てごらんなさい」
いわれたとおりにすると、おなべの中に、野菜の煮物がいっぱい出てきたのです。
次に坊さんは、ふところから米つぶを三つぶとりだして、
「おかまを洗って、このお米をたきなさい」
と、いうので、そのとおりにすると、今度はおかまいっぱいに、ホカホカのご飯がたきあがったのです。
「さあ、これでおかずもご飯もできた。三人で、たのしい年忘れの食事をしましょう」
坊さんにいわれて、おじいさんとおばあさんは、まっ白なご飯とごちそうですばらしい年忘れをしました。
おなかがいっぱいになると、坊さんが二人にいいました。
「明日はお正月じゃ。もし望みがかなうなら、あなたがたは宝物がほしいかな? それとも、もう一度若くなりたいですかな?」
「はい、わしらはよく話します。二人が出会った十七、八にかえってみたいと」
おじいさんがそう答えると、お坊さんはたらいにお湯をわかすようにいって、黄色い粉をパラパラとお湯の中に落としました。
「さあ、手をつないでお湯につかってみなされ。そして、十数えてみなされ」
おじいさんとおばあさんは、言われたとおりにお湯につかりながら、
「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十」
と、十数えると、二人はたちまち若い娘と若者になっていたのです。
二人が喜んでいると、もう夜が明けてきました。
娘になったおばあさんが井戸水をくみにいくと、となりの庄屋夫婦がおどろいて、わけをたずねました。
話をきいて庄屋は、すぐに坊さんを家へひっぱっていき、むりやりごちそうしました。
「わしは夜が明けたら、空へ帰らねばならんのじゃ。早くふろをわかしなさい」
すぐにおふろをわかすと、坊さんは赤い粉をパラパラとおふろに落としました。
「さあ、もう時間がないから、奥さんも息子さんも、この家で働いておる者も全部一緒に入ってな。十数えてみなされ」
そういわれて、みんなは大喜びです。
そして一度におふろに入り、十数えてとびだすと、庄屋さんと奥さんはずるがしこいサル、息子はイヌ、働いている三人の男と女は、ネコとネズミとヤギになっていたという事です。
おしまい
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