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百物語 第十一話
かえってきたなきがら
京都府の民話
むかしむかし、京の都のある屋敷(やしき)に、娘がくらしていました。
父と母にかわいがられて育ちましたが、もう、二人とも死んでしまっていません。
娘はお嫁にいくこともなく、屋敷をまもっていましたが、ある時、重い病気にかかって死んでしまいました。
そこで親戚(しんせき)の人たちがお葬式(そうしき)をすることになって、娘のなきがらをひつぎにおさめて、さみしい野原に運んでいきました。
その途中の事、ひつぎをかついでいた人たちが、
「おや? どうしたんだろう? 急にひつぎがかるくなったぞ。ちょっと、しらべてみよう」
と、いいだしました。
ひつぎをおろしてみると、ふたがほんの少し開いています。
「あっ!」
ふたを開けた人たちは、思わずビックリ。
なんと、たしかにおさめたなきがらが、かげもかたちもありません。
「どこかに、落としてきてしまったのだろうか?」
「そんなはずはない。もし落とせば、すぐにわかるはずだ」
「とにかく、道をもどってみよう」
親戚の人たちはひきかえしましたが、なきがらを見つける事はできません。
すると、一人の男が、
「もしかしたら、あの屋敷に」
と、娘の屋敷へ出かけてみました。
すると娘のなきがらが、もとのまま座敷のふとんに横たわっていたのです。
男はおそろしくなって、親戚の人たちを呼びよせて相談しました。
「まったく、不思議な事だ。わけがわからん」
「いずれにしても、明日、あらためて野べ送りをしようではありませんか」
こうして野べ送りは、あくる日やりなおされる事になりました。
娘のなきがらは、ふたたびひつぎにおさめられ、しっかりとふたがされました。
「では、そろそろ運びましょう」
親戚の人たちがひつぎに手をかけようとすると、しっかりふさいだふたが、わずかに開きはじめたではありませんか。
親戚の人たちがあっけにとられていると、ふたはさらに開いて、娘のなきがらが立ちあがりました。
「あわわ!」
「・・・・・・!」
親戚の人たちは、腰をぬかして口もきけません。
ひつぎをぬけだしたなきがらは、もとの座敷のふとんによこたわりました。
「不気味な事だが、このままにしておくわけにはいくまい。もう一度、ひつぎにおさめよう」
親戚の人たちはおそるおそる、なきがらをかかえあげようとしたのですが、まるで根をはやしたようにビクともしません。
そのとき一人のおじいさんが、なきがらの耳もとにはなしかけました。
「そうか、そうか。この屋敷をはなれたくないというのだな。では、のぞみをかなえて床下にうめてあげよう」
おじいさんはみんなをさしずして、床をはがしてもらい、穴をほりました。
おじいさんがなきがらをだくと、今度はやすやすとだきあげられ、床下におろされました。
親戚の人たちは土をもりあげて、つかをつくると、ホッとした顔でかえっていきました。
やがて屋敷はとりこわされましたが、つかだけは、今でも残されているそうです。
おしまい
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