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8月9日の日本民話
キツネのかくれずきん
岡山県の民話
むかしむかし、あるところに、おじいさんがいました。
おじいさんは、いつも、
「おれはこれまで一度だって、キツネにだまされたことがない」
と、自慢(じまん)していました。
ある日の事、おじいさんが山へいくと、一匹のキツネが道ばたで手ぬぐいのようなものを頭にかぶって、さかんに体を動かしています。
「ははん、何かに化けようとしているのだな」
おじいさんが木のかげにかくれて見ていると、キツネは美しい娘さんに化けました。
「こいつは見事に化けたな。じゃが、おれはだまされんぞ」
おじいさんはなにくわぬ顔で、歩きだしました。
すると、娘さんに化けたキツネが近づいてきて、
「もしもし、おじいさま、どこへいきます?」
と、聞きました。
「わしは山へ木を切りにきたが、お前さんこそどこへいきなさる? あんまり見かけない娘さんだが」
すると、キツネは、
「はい、わたしは、これから町までお使いにいきます」
と、言いました。
あんまりまじめな顔で言うので、おじいさんはおかしくてたまりません。
そこで、少しキツネをからかってやろうと思い、
「町へ行くのもいいが、そのしっぽはなんだね?」
と、言ってやりました。
キツネはビックリして、自分の後ろをふり返りましたが、しっぽなんかどこにも出ていません。
「おかしなことを言うおじいさん。人間にしっぽなんかありませんよ」
キツネの娘さんは、口をとがらせて言いました。
「だめだめ。わしをだまそうたって、そうはいかないぞ。お前がキツネだいうことは、ちゃんとわかっておる」
娘さんに化けたキツネは、もとのキツネにもどって言いました。
「これはおどろいた。たしかにおいらは、この山に住むキツネだ。よく見破ったぞ、じいさん」
するとおじいさんは、ますます得意になって自慢しました。
「なあに、わしはこれまで一度だってキツネにだまされたことがない」
キツネは、すっかり感心したふりをして、
「そんなら、じいさんにかくれずきんというのをやるから友だちになってくれ。そのかわり、じいさんのにぎり飯をおらにくれ」
と、言って、古い手ぬぐいを一枚出しました。
「なんだこりゃ?」
おじいさんは、まるで汚いものでも見るような顔で言いました。
するとキツネは、それを頭にかぶって、
「じいさん、よく見てみろ。おらが見えるかい」
と、聞きました。
なるほど、いま目の前にいたはずのキツネがいません。
おじいさんがキョロキョロしていると、パッとキツネが現れました。
「どうだいじいさん。これとにぎり飯を取りかえてくれるかい?」
「いいとも」
おじいさんは古い手ぬぐいを受け取り、かわりににぎり飯のつつみをキツネに渡しました。
「これは、いいものをもらったぞ」
おじいさんは大喜びで、家に帰っていきました。
さて、その翌日、おじいさんは頭にかくれずきんをかぶって町へいきました。
自分の姿がだれにも見えないと思うと、とても楽しくなってきます。
「どれ、あそこのまんじゅうをもらうとするか」
おじいさんはまんじゅう屋の店へ、そろりそろりと入っていきました。
それからいきなりまんじゅうをつかんで、ふところへ入れました。
それを見た、まんじゅう屋の主人は、
「ドロボウ!」
と、言うなり、おじいさんの手をつかみました。
その声を聞いて、近くの人がかけつけてきました。
「汚い手ぬぐいなんか、頭にのせやがって」
「とんでもないじじいだ」
みんなはよってたかって、おじいさんをなぐりつけました。
おじいさんは血だらけになって、泣きながら家に帰っていきました。
キツネにだまされないと言っていたおじいさんは、すっかりキツネにだまされてしまったのです。
おしまい