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日本の有名な話 第31話

ろくろっ首

ろくろっ首
静岡県の民話

 むかしむかし、旅から旅をつづける一人の男がいました。
 ある日の事、日がくれてきたので、男は浜松(はままつ→静岡県南西部)の近くにある村の宿屋にとまることにしました。
 その夜はあいにく、とまり客がたくさんいました。
 そこで男は美しい女の旅人と一緒に、一つの部屋のまん中にびょうぶをたてて、一夜をすごすことになりました。
 夏の夜だったので、いつまでたってもむしあつく、ねむたくてもなかなかねむれません。
 男は夜ふけになって、やっと、うとうとしはじめました。
 びょうぶの向こうでねている女の人も、やはりねむれないのでしょうか。
 いつまでもモゾモゾしていましたが、そのうちにきゅうにおきあがる気配がしました。
(はて。便所にでもいくのかな?)
 男はそう思いましたが、けれども、となりはすぐに静かになりました。
 ところがしばらくすると、びょうぶの向こう側から、生あたたかい風がふいてきました。
 そして女の人の白い顔がびょうぶの上にのびあがって、フワフワと部屋の中を動き始めたのです。
 男はビックリして、ゴクリと息をのみこみました。
(さては、となりの女はろくろっ首だな)
 男はねたふりをしながら、くらい部屋の中を動きまわる女の白い首を見ていました。
 女の首は男の足もとの方へいったかとおもうと、びょうぶの上をつたわって、天井の方へものぼっていきます。
 細くなった白い首が、クネクネとのびていきます。
 男はろくろっ首が少しでも悪さをしたら、飛びかかっていって長い首をひきちぎってやろうと思いましたが、けれどもろくろっ首は、何も悪さをしません。
 ただフワフワと、楽しそうに部屋の中を動きまわっているだけでした。
 だけどそのうちに、女の白い首は半分開いた雨戸(あまど)のあいだから、するりと外へぬけだしていきました。
(はて。どこへいくのだろう?)
 どうせねむれないので、男は頭をあげると、ろくろっ首がのびていくあとを追って、雨戸のあいだから外へ出て行きました。
 美しいろくろっ首は、宿屋の前のとおりをよこぎって、お地蔵(じぞう)さんのたっている林の中へ入っていきました。
 そして林のおくにある池のほとりまでフワフワのびていくと、ヘビのように長いしたを出して、池の水をペロペロとなめはじめたのです。
(なんだ、水をさがしていたのか。のどがかわいていたので、こんなところへ水をのみにきたのだな。そういえば、おれものどがかわいたな)
 そっとあとをつけてきた男は、木のかげにかくれてゴクリとのどをならしました。
 そのとき、水をのんでいたろくろっ首が男の方を向いて、ニヤリとわらったのです。
(しまった。見つかったかもしれん)
 男はいそいで宿屋へもどり、また雨戸のあいだから部屋の中に入ると、なにくわぬ顔をしてねむってしまいました。
 さて、次の日の朝の事です。
 男より早く目をさました女が、びょうぶのかげから男に声をかけてきました。
「きのうの晩は、ずいぶんむしあつかったですねえ。よくねむれましたか?」
「まったく。本当に、むしあつかったですなあ」
 男はそう答えながら、ふとんをかたづけて、びょうぶをとりのぞきました。
 女の人はカガミに向かって、髪の毛をととのえていました。
「あつかったけれど、きのうはつかれたのか、わたしはぐっすりとねむって、夢一つ見ませんでしたな」
 男はわざと、とぼけた事をいいました。
「あら、そうでしょうか? あなたさまは不思議な事をなさいましたが」
 女の人は口もとに手をあてて、笑いをおさえながらいいました。
「はて。わたしが不思議な事を? それは、どういうことですか? 不思議な事をしたのは、むしろあなたではないですか」
 男が少し怖い顔で言い返すと。
「あら、わたしが不思議な事? わたしがいったい、何をしましたか?」
と、いうのです。
「それなら、いってやりましょう。あなたは美しい顔をしているが、じつはろくろっ首で、この部屋の雨戸からぬけ出して、むかいの林のなかにある池へ水を飲みにいったではないですか!」
 すると女の人が、ケラケラと笑いながらいいました。
「あなたさまは、ご自分の事に気づいてないのですか?」
「なにをです!」
「この部屋は、二階ですよ」
「・・・あっ!」
「ようやく気がついたのですね。あなたさまが首をどんどんと長くのばして、ずっとわたしのあとをつけてきたことを。夜なかにこっそり女のあとをつけるなんて、あまりいいご趣味とはいえませんね」
「・・・・・・」
 男はこの時はじめて、自分もろくろっ首であることに気づきました。
 女のろくろっ首はニコニコ笑いながら、男のろくろっ首にいいました。
「ここでこうして出会ったのも何かの縁。どうです。似たもの同士これから旅を続けませんか?」
「・・・いえ、せっかくの申し出ですが」
 男は急いで旅のしたくをすると、どこへともなくさっていったという事です。

おしまい

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