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日本のふしぎ話 第46話
てんとうさんと金のくさり
佐賀県の民話
むかしむかし、あるところに、お母さんと三人の子どもがいました。
ある日の事、お母さんはいつものように庄屋(しょうや)さんの家へ、手伝いに出かけました。
お母さんは一日中、庄屋さんの家ではたらいて、かえりにおにぎりを三つもらってきました。
「おいしそう。子どもたちが喜ぶだろうなあ。さあ、はやくかえろう」
お母さんが山道をいそいでいると、大変なことに、やまんばと出くわしてしまったのです。
「い、いのちだけはおたすけを。そのかわり、このおにぎりをさしあげますから」
そう言って、おにぎりを全部さし出すと、やまんばはペロリと食べてしまいました。
そしてお母さんまでも、一口で食べらてしまったのです。
さて、子どもたちが家で留守番(るすばん)をしていると、
「トントントン」
と、戸をたたく音が聞こえてきました。
「お母さんだよ、開けておくれえ」
でもその声は、おそろしくガラガラな声でした。
「お母さんは、そんなへんな声じゃない。お前はやまんばだろう」
子どもたちに正体を見やぶられたやまんばは、声のよくなる木の実を食べました。
「お母さんだよ、あけておくれえ」
声はお母さんに似ていますが、子どもたちは用心(ようじん)して言いました。
「じゃあ、手を見せておくれよ」
子どもたちに言われて、やまんばは戸のすき間から手を差し入れました。
するとその手は、毛むくじゃらです。
「お母さんの手は、そんな毛むくじゃらじゃない。お前はやまんばだろう」
また正体を見やぶられたやまんばは、畑に行って、山イモを手にぬりつけました。
「今度こそ、本当のお母さんだよ。あけておくれえ」
やまんばは、戸のすきまから手をさし入れました。
山イモをぬりつけたので、まっ白ですべすべの手です。
「すべすべの手だ。わーい、本当のお母さんがかえって来たんだ」
子どもたちは、戸を開けました。
するとお母さんに化けたやまんばは、一番小さな弟をだきかかえると、さっと、寝る部屋に入ってしまいました。
しばらくして上の二人の兄弟は、お腹が空いたので、お母さんに声をかけました。
「お母さん、ごはんはまだ?」
すると、こんな答えが返ってきました。
「わしはもう、お腹がいっぱい。お前たちの弟は、うまかったよ」
これを聞いて、二人の兄弟はビックリ。
「あれは、お母さんじゃない。やまんばだったんだ。かわいそうに弟は、食べられてしまったんだ」
兄弟はそっと家を抜け出すと、いちもくさんに逃げだしました。
兄弟が逃げだした事に気がついたやまんばは、すごい速さで追いかけてきました。
「まてまてえ、逃がしてなるものか!」
「もうだめだ、このままでは追いつかれてしまう」
ふと前を見ると、すぐ先に大きな木があります。
兄弟は持っていたナタで木に切れ目をつけて、のぼっていきました。
やまんばは、木の下からどなりました。
「やいお前たち、どうやって、この木にのぼったんだ?」
すると、上の兄が言いました。
「簡単さ。手につばをつけてのぼるんだよ」
やまんはは言われたとおりに、手につばをつけてのぼろうとしましたが、ツルツルとすべってのぼれません。
それを見ていた二番目の兄弟が、
「バカだな。ナタで切れ目をつけてのぼればいいのに」
と、言ってしまったのです。
「そうかい、それはいい事を聞いたよ」
やまんばはナタで木に切れ目を入れながら、どんどんとのぼっていきました。
兄弟はあわてて上へのぼっていきますが、やまんばにはかないません。
もう少しで追いつかれそうになったとき、兄弟は空にむかっておいのりしました。
「おてんとうさま、おてんとうさま。ぼくらを助けてください。助けてくれるなら、金のくさりを下ろしてください」
すると空から、金のくさりがするすると下りて来たのです。
「ありがとう、おてんとうさま」
兄弟がこのくさりにつかまると、くさりはひとりでに、ガラガラと空にまき上げられていきました。
それを見ていたやまんばも、兄弟のまねをして言いました。
「おてんとうさま。こっちにもくさりを下ろしてくれえ」
すると今度は、くさったなわが下りて来ました。
やまんばがくさったなわにつかまると、くさったなわはプッツリと切れてしまい、やまんばは地面へと、まっさかさまにおちて行ったのです。
こうして助かった兄弟は、夜空にかがやく兄弟星になったと言う事です。
おしまい
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