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日本の恩返し話 第30話

ニワトリの恩返し

ニワトリの恩返し
青森県の民話

 むかしむかし、ある村のお寺の和尚(おしょう)さんが、北海道へでかけて帰ってくるときのことでした。
 連絡船(れんらくせん)の船室で眠っていた和尚さんは、不思議な夢をみました。
 一羽のニワトリが、こんな事をいうのです。
「わたしは、この船にのっているニワトリです。夜明け前には殺されて食べられてしまいます。どうかわたしを助けてください。六十銭で、わたしの命を買いとってください。どうかお願いいたします」
 やがて空が白みはじめると、和尚さんは目をさましました。
「不思議な夢じゃ。ただの夢だろうが、もしもという事がある」
 そこで和尚さんは船が港につく前に、お供の小僧(こぞう)さんに一円札を持たせて、ニワトリをつれている人がいたらその人からニワトリを買いとるよういいつけたのです。
 しばらくすると、小僧さんはカゴに入ったニワトリと、つり銭の四十銭を持って和尚さんのところへもどってきました。
 何と、金額までピッタリで、不思議な夢は正夢だったのです。
 和尚さんはそのニワトリを港の知り合いの人にあずけて、村のお寺へ帰っていきました。
 ニワトリはその後、八ヶ月ほどして死んでしまいました。
 ニワトリをあずけた知り合いからその知らせをうけると、和尚さんは知りあいの家まででかけていって、ニワトリの供養(くよう)をしてやりました。
 それからしばらくたったある日、和尚さんの夢の中に、あのニワトリが現れました。
「和尚さま、おかげさまでわたしは命をのばすことができました。寿命がつきるまで生きられたのですから、まことにしあわせです。お礼として和尚さまのお命を、七十五才になる年の七月二十五日までお守りいたします。それまではどんな病気になっても、けっして死ぬようなことはさせませんのでご安心を」
 それから行く年か過ぎて、和尚さんは七十五歳の七月二十五日の日をむかえました。
「今日までは、あのニワトリがわしを見守ってくれていたわけか。そう言えば、今までたいした病気にもならずにやってこられた。ニワトリに礼をいわんといかんな。さあ、あしたからはニワトリも見守ってくれん。体に注意せんとな」
 和尚さんは自分にいいきかせましたが、その後まもなく病気になり、一月後の八月二十五日に大往生(だいおうじょう)をとげたという事です。

おしまい

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