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日本の恩返し話 第15話
ハチの恩がえし
栃木県の民話
むかしむかし、那須与一(なすのよいち)という、弓の名手(めいしゅ)がいました。
与一(よいち)は源氏(げんじ)の武士(ぶし)で、平家(へいけ)と戦った屋島の合戦(やしまのかっせん)のとき、海にのがれていた平家の小舟にたてた扇(おおぎ)の的(まと)を、たった一本の矢で射落(いお)としたのです。
あまりの見事さに、このときは敵も味方も関係なく、大歓声(だいかんせい)がわきあがったそうです。
このとき与一は、二十歳の若者でした。
さて、この与一は下野の国(しもつけのくに→栃木県)にいた幼いころから、弓の腕をみがいていました。
あるとき与一は、弓を持って那煩野(なすの)の原へ、一人で狩りにでかけました。
すると、ススキのやぶの中にはられたクモの巣(す)に、一匹のハチがかかってもがいていたのです。
葉っぱのかげには大きなクモがいて、獲物(えもの)が動かなくなるのをジッと待っています。
ハチをかわいそうに思った与一は、弓の先でクモの巣をやぶってハチを逃がしてやりました。
それから何日かたって、与一はまた弓を持って、那須野の原にでかけていきました。
ススキをわけいっていくと、やぶの中に子どもが一人で立っています。
子どもはにこやかな顔で、与一にふかぶかと頭を下げていいました。
「このあいだは、命をお助けくださってありがとうございました。父がお待ちしております。ぜひ、うちへお立ちよりください」
「このあいだとは?」
なんの事かと思いましたが、与一はハチを助けたことを思いだしました。
まさかとは思いましたが、与一は子どもに案内されるまま、ススキのやぶをわけながらついていったのです。
すると、これまで何度も足をふみいれたことのあるやぶの奥に、美しい赤い門がたっていて、金銀をちりばめたようにかがやく宮殿(きゅうでん)があったのです。
宮殿の中に通されると、頭にかんむりをのせて、きらびやかな衣をまとった老人が待っていました。
「来てくれてありがとう。この子はわたしの子です。あなたの助けによって命をすくわれました。恩返しのお礼をさしあげたいとぞんじます。これは、わが家につたわる宝物で、この矢で射(い)れば、あなたは天下(てんか)に名をあげることができるでしょう」
そういって、与一に一本の矢を手わたしました。
与一は矢をもらって黄金の宮殿をあとにし、ふと門をふりかえってみると、黄金の宮殿もりっぱな赤い門も、まぼろしのように消えていていたのです。
与一がのちに、屋島の合戦で平家の小舟の扇の的を射たのは、このときハチにもらった矢だったという事です。
おしまい
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