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日本の感動話 第29話
まま母と地蔵さま
秋田県の民話
むかしむかし、秋田県の能代市(のしろし)というところに、ある夫婦が住んでいました。
なかなか子どもがうまれないので、二人して近くのじぞうさまに毎日おまいりをして、
「どうか、子どもをさずけてくだされ」
と、たのみしました。
そのかいがあって、あくる年、男の子がうまれました。
夫婦はたいへんよろこんで、名を信吉(しんきち)とつけました。
しかし、信吉が五つのときに母親が死んでしまい、こまった父親は新しい妻(つま)をむかえました。
やがてあたらしい母は男の子をうむと、その弟の方ばかりかわいがり、信吉をいじめるようになりました。
ある日の事、母はわずかなお金をもたせて、信吉をおつかいにだしました。
しかし、信吉はなかなか戻ってきません。
「まったく! あの子は何をしているんだ!」
イライラした母は信吉が帰ってくるなり、するどくとがった火ばし(→炭火などをつかむ、金属製のはし)をもって、信吉におそいかかったのです。
信吉がビックリして逃げだすと、母は火ばしをもったまま後をおいかけて、人気のない道で火ばしを信吉の頭のうしろへつきさしたのです。
「ギャアーー!」
と、いって、信吉はバッタリとたおれました。
「ふん! 早く帰ってこないお前がわるいんだ」
母は家へもどると知らんぷりをして、父親がかえってきても、
「まったく、どこまで遊びにいっているんだ」
と、ごまかしていました。
夜になって三人きりで夕はんを食べようとしたとき、家の戸があきました。
なんとそこには、信吉が立っていたのです。
ビックリした母は、走りよって信吉の頭をマジマジと見ました。
「???」
信吉の頭には、火ばしでさされたあとはありません。
母は夜中になると、こっそり家を抜け出して、信吉を刺し殺した場所に行ってみました。
するとそこには信吉ではなく、お地蔵さんが転がっていたのです。
「も、もしかして!」
そのお地蔵さんの頭を見てみると、なんと、火ばしがささったままではありませんか。
「ああ、わたしは子どもになんて事をしたんだ。すまねえ事した。かんにんしてけれよ」
母は家に帰ると父親と信吉に今日の事を全部話して、二人に泣いてあやまりました。
そしてその日から、母はやさしい母親になったという事です。
おしまい
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