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日本のわらい話 第11話
ハチとクモとアリ
奈良県の民話
むかしむかし、ハチがクモのところへやってきて、
「クモさん、二人でお伊勢(いせ)さまに、お参りしないか?」
と、言いました。
「それはいい、毎日たいくつしていたところだ。さっそく出かけよう」
そこで二人は旅じたくをして、お伊勢参りに出かけました。
するとその途中に、財布(さいふ)が一つ落ちていました。
「あっ、財布だ!」
クモがあわててひろおうとすると、ハチが言いました。
「だめだよ。わしが先に見つけたんだよ」
「うそつけ、わしが先だ」
二人は財布をはさんで、けんかをはじめました。
「やいやい、お伊勢さまにいこうと言ったのは、このわしだ、わしがさそわなかったら、この財布は見つからなかったぞ! だから財布はわしの物だ!」
ハチが、いばって言うと、
「なにを言う。わしが下をはっていたから見つけたんだ。お前は空ばかり飛んでいたじゃないか!」
と、クモがおこって言いました。
「なにをー!」
「やるかー!」
二人はとうとう、とっくみ合いのけんかをはじめました。
するとそこヘ、アリがやってきました。
「やめろ、やめろ。こんなところでけんかをしてはじゃまだ」
アリが二人の間にわって入ったので、二人はやっとはなれました。
「いったい、どうしたというのだ?」
アリが、たずねました。
「クモさんが悪いんだ。わしの見つけた財布を先にひろおうとしたからだ」
「うそつけ、財布を見つけたのは、おれが先だ」
「なにおーっ」
「なんだとーっ」
二人はまた、にらみ合いました。
「わかった、わかった。おれにまかせろ。おれがけんかしないように、ちゃんとわけてやる」
アリはその財布を見て、ニヤリと笑いました。
「うむ。だいぶお金が入っているようだ。これは百文(→一文は30円ほど)はあるな。でも、人の落とした財布を自分のものにするのはよくないな。ちゃんとお役所に届けなくちゃ」
「ええっ」
「そんなーっ」
クモとハチは、ガッカリして顔を見合わせました。
「心配するな。ひろったお金を届けたらお礼がもらえる。だから先に、わしがお礼はわけてやる」
アリは財布からお金を出して、かぞえはじめました。
「クモさんには九文、ハチさんには八文、残りはお役所に届けよう」
そう言って、二人に九文と八文を渡すと、アリは残りのあり金を全部持っていってしまいました。
クモは九、ハチが八、アリは、あり金を全部という事です。
おしまい
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