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日本のわらい話 第15話
ハチとアリ
秋田県の民話
むかしむかし、男鹿半島(おがはんとう→秋田県)に虫たちの国があり、その国にきれいなハチが住んでいました。
ハチの羽はきれいにすきとおっていて、まるで天女(てんにょ)の羽衣(はごろも)のようです。
「なんてきれいんだろう。日の光にすかすと、虹のように色どりきれいなしまもよう出来る。おらは、この村で一番美しいんじゃ」
と、ハチはわれながらうっとりです。
さて、おなじ村に住むアリはというと、いつもいつもドロンコになりながら働いています。
ハチは、働いているアリのところへ飛んできて言いました。
「毎日毎日ごくろうじゃのう。でも、働くばかりじゃなくて、たまには海でも見てゆっくり休んではどうじゃ?」
「海? 海ってなんだ?」
「おや? アリさんは海を知らんのか? まあ、何と言えばいいのか。海はな、塩からい水が青く光っていて、ザブーン、ザブーンと波打ってるだよ」
「ザブーン、ザブーンか。おもしろそうだな」
「そうとも。それからな、その海に何がいると思う?」
「さあ、知らねえ」
「さかなだよ。さかながいるんだ」
「さ・か・な?」
「なんだ、さかなも知らんのか。さかなはな、すっごくおいしい食べ物なんだ」
「へーっ、そんなにおいしいなら、食ってみたいな」
「だがな、おらはこの美しい羽なら海までひとっ飛びじゃが、アリさんにはちょっとむりじゃな」
「だいじょうぶ。ちゃんとハチさんについていくから」
「よし、じゃあ、おくれないようについてこいよ」
「わかった!」
アリは、空を飛ぶハチを必死で追いかけました。
やがて、一足先に海に着いたハチは、海につきだしている岩の上でひと休みです。
「ああ、海はいつ来ても気持ちがいいな。・・・おや?」
ハチは、岩のまわりを泳いでいるニシンのむれを見つけました。
「これはニシンじゃねえか。よしよし、一番大きいのを取ってやる。・・・今だ!」
ハチは飛びはねたニシンをつかまえると、おしりのハリでチクリとさしました。
「よし、つかまえたぞ!」
そのころ、アリはやっと海に到着しました。
「こいつが海というものか。海って、でっかいなー」
アリが感心していると、波にのって飛び出した大きなタイが空中へ投げ出されて、アリの目の前にドスンと落ちました。
そこへ、ニシンを持ってハチが飛んできました。
「おーい、アリさん、やっと来たんだな。あんまり遅いんで、おらはもうニシンをつかまえたぞ。見てみろ、この大きなニシンを。・・・うん? ややっ、アリさん、これはなんともでっかいタイだな」
「これは、タイというのか?」
「そうだ。タイはさかなの王さまで、味は天下一品じゃ」
「そうか、それはありがたい。ところでハチさん。ハチさんが持っているそのさかなは?」
「これか? これはニシンじゃ。アリさんがあんまりおそいんで、もうとっくのむかしにつかまえたんだ」
「さすがハチさん。・・・じゃが、ニシンよりもタイの方がでっかいし、赤くてうまそうだ」
そういうアリに、ハチがすりよってきていいました。
「なあ、アリさん。おらは見た目にもきれいだし、美しい羽根も持っている。そのタイはおらの方がにあうと思うだが」
「うん? とりかえっこをしてくれというのか? いやだ、ことわる」
そういってタイをかついで帰ろうとするアリに、ハチは追いかけていいます。
「なあ、友だちのアリさん。このおらの美しさには、この赤いタイがお似合いなんだ。それに、お前さんの黒っぽい体には、ニシンの青黒い色はちょうどよくにあう。そうだと思わねえか」
「思わん! とにかくタイはやらん!」
「いいや、タイはおらで、アリさんがニシンじゃ!」
「ハチさんが、ニシンじゃ」
「なんだと!」
「なにおー!」
こうしてハチとアリのけんががはじまり、二匹は村長のカブトムシに、どちらがタイをもらうかを決めてもらうことにしました。
ハチとアリの話しを、ジッと聞いていた村長がいいました。
「よし、それではさばきをつける。ハチとアリよ、よーく聞くがいい」
「はい」
「へい」
「まずハチよ。おまえは九九(くく)を知っとるか?」
「はい、知ってます」
「では、二、四が?」
「八です」
「そのとおり。二、四が八。つまり、ニシンがハチじゃ」
「なるほど」
「つぎに、アリよ」
「へい」
「人からものをもらったら、なんという?」
「ありがたいです」
「そう、ありがたいじゃ。つまり、アリがタイじゃ」
「なるほど」
「これによって、アリがとったタイはアリのもの。ハチがとったニシンはハチのものということじゃ。じゃが、お前たちは友だち同士、どっちがどっちでけんかするよりも、ニシンとタイをなかよく半分ずつにしてはどうじゃな」
「なるほど、その手があったか」
村長の話になっとくしたハチとアリは、ニシンとタイを仲良く半分こして食べたそうです。
おしまい
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