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百物語 第七十二話
お菊ののろい
群馬県の民話
むかしむかし、上州(じょうしゅう→群馬県)に、小幡上総介(おばたかずさのすけ)という侍(さむらい)がいました。
とても短気で乱暴な男でしたが、お菊(きく)という美しい女中(じょちゅう)をとても気に入っていました。
ある朝、上総介(かざさのすけ)がお菊の運んできた朝ご飯を食べようとしたとき、ご飯の中に何やらキラリと光るものが入っていました。
はしでつまみ出してみると、何とそれは、一本のぬい針だったのです。
上総介は怒りでからだをふるわせると、お菊につかみかかって問いただしました。
「この恩知(おんし)らずめ! よくもわしを殺そうとしたな。どうしてこんなことをしたのじゃ!」
まるで身に覚えのないお菊でしたが、上総介に何度も何度も殴りつけられて、いいわけをするひまもありません。
そのようすをおもしろそうに見ていた奥さんが、言いました。
「この女は、性根の曲がった頑固者(がんこもの)です。殴ったぐらいでは白状しますまい。どうです、ヘビ責(ぜ)めになさっては」
「よし、そうしよう」
お菊は裸にされて、お風呂の中に、たくさんのヘビと一緒(いっしょ)に投げこまれました。
お風呂の水がだんだん熱くなると、苦しくなったヘビがお菊にかみつきます。
地獄のような苦しみの中で、お菊は、
「このうらみ、死んでもはらしてくれようぞ!」
と、言い残して、ついに死んでしまったのです。
それから何日かして、奥さんは体中をハリでさされる痛みにおそわれて、寝こんでしまいました。
医者をよびましたが、まるで原因がわかりません。
何日も何日も苦しんだすえに、
「お菊、許しておくれ、針を入れたのはこの私じゃ。上総介に可愛がられるお前がにくかったのじゃ」
と、言うと、そのまま死んでしまいました。
上総介は本当のことを知って、死んだお菊にあやまりましたが、いまさらお菊は許してくれません。
その夜から、上総介の屋敷にお菊の幽霊(ゆうれい)が出るようになったのです。
家来や女中たちは怖がって逃げてしまい、一人きりになった上総介は、何度も何度もお菊にあやまりながら死んでいったのです。
その後、小幡家の人々によって、お菊のためにお宮が建てられました。
それからは、お菊の幽霊は現われなくなったという事です。
おしまい
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