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日本のふしぎ話 第39話

たましいが入った竜

たましいが入った竜
栃木県の民話

 むかしむかし、宇都宮(うつのみや)に、うるし商人の武太夫(たけだゆう)という男がいました。
 今日はすすはらいの日なので、武太夫は朝から畳(たたみ)を外へ出してたたいたり、家の中をそうじしたりして、体中がほこりだらけになっていました。
「おふろがわいておりますので、どうぞ」
と、奥さんがいうと、武太夫は、
「ふん! 一番湯は体によくない。隠居(いんきょ)のおやじを先にいれろ」
と、いうのです。
 武太夫は大金持ちでしたが、それにはわけがありました。
 数年前のある日、山奥の谷川のふちの底に、大量のうるしを見つけたのです。
 うるしは、うるしの木の皮からとれる汁で、おわんなどのぬり物につかわれます。
 そのうるしが長いあいだ水に運ばれて、ふちの底にたまったのです。
 うるしは高価なもので、無断でとることを禁じられていましたが、武太夫はこの谷川の底のうるしを少しずつ売り、大金持ちになったのです。
 武太夫は秘密のうるしを、いつまでも自分だけのものにしておきたいと思いました。
 それで腕のよい細工師(さいくし)に、おそろしいの細工をつくらせて、人がこわがってよりつかないように、うるしのあるふちの底にしずめたのでした。
 しばらくすると竜の細工は、上流から流れてくるうるしや水あかなどがついて、おそろしい本物の竜のようになっていました。
 ある時、武太夫は十四歳になる一人息子の武助(たけすけ)をつれて、山奥のふちへいきました。
 そして、うるしの秘密を話すと、
「このうるしは、わしらだけのものじゃ。わざわざ木を切りつけて汁をとらなくても、いくらでもここへたまっておる。いいか、わしがするのをよく見て、うるし取りの練習をするんだぞ」
 武太夫は息子にいいきかせて、親子でふちへ入っていきました。
 すると竜の細工がとつぜん頭をあげて、息子にとびかかってきたのです。
 細工の竜は水の中にいるうちにたましいが入って、いつしか本物の竜になっていたのです。
 あわてた武太夫は息子を助けようとしましたが、竜が相手ではどうにもなりません。
 やがてふちの水の上に、二つの死体がうかびあがって下流へ流れていきました。
 二人の死体は二日目になって、村に近い川原でひきあげられました。
 取り調べの結果、武太夫はうるしの盗みどりをしていたことがわかりました。
 そして罰(ばつ)として、新しくたてたばかりの家や財産は、すべてをとりあげられてしまったのです。
 あとに残された武太夫の父親と奥さんは、とてもまずしい生活を送ったという事です。

※ 宮城県にも、同じような民話があります。 →  生きている竜

おしまい

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