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日本のわらい話 第5話
三人なき
岡山県の民話
むかしむかし、あるところに、おばあさんが一人で住んでいました。
ある日の事、遠くへはたらきに行っている息子から手紙が来ました。
でも、おばあさんは字を知らないので、手紙が読めません。
すると向こうから一人の侍(さむらい)がやって来たので、おばあさんはたのみました。
「もしもし、お侍さん、息子から手紙をもらったのですが、わたしは字がわかりません。どうか、この手紙を読んでください」
侍は手紙をうけとり、しばらくジッと見ていましたが、突然ポロポロと涙をこぼしました。
おばあさんは、ビックリです。
「お侍さん、何か悪い知らせでも書いてあるのですか? どんなことでもおどろきません。教えてください」
ところが侍は涙を流すばかりで、何も言いません。
(ああ、これはきっと、とても悪い知らせにちがいない)
そう思うと、おばあさんはきゅうに悲しくなって、涙をポロポロこぼしました。
そこへ、土で出来たおなべを売る、ほうろく売りがやって来ました。
「もしもし、どうしたのですか?」
ほうろく売りがたずねても、侍とおばあさんは泣くばかりです。
するとほうろく売りも、荷物をそこへおいて手紙を見るなり、泣き出しました。
通りかかった人は、いったい何ごとが起きたのかと、三人のまわりに集まってきました。
「さあ、泣いてばかりいないで、わけを話しなさい」
「こまったことがあるなら、力をかしてやりましょう」
すると、ほうろく売りが言いました。
「じつは去年の今ごろ、ほうろくを売りに行ったら、とちゅうで転んでみんな割ってしまいました。くやしくて泣きたいほどでしたが、いそがしいので泣くのをのばしました。ちょうどここを通りかかると二人が泣いているので、その時の事を思い出して、今、ないているのです」
「なんと。まったくあきれた人だ。それじゃおばあさんは、どうしてないているのですか?」
一人が、たずねました。
「はい、実は息子から手紙が来たので、このお侍さんに読んでもらおうとしたら、お侍さんが何も言わずに泣き出したんです。これは、きっと悪い知らせにちがいない。そう思うと悲しくて悲しくて・・・」
おばあさんは、涙でグチャグチャになった顔をふきました。
「そうか。それはお気の毒に。さあ、お侍さん、ないてばかりいないで、早く息子さんのようすを教えてあげたらどうです?」
すると侍は顔をあげて、なさけない声で言いました。
「手紙を読めるくらいなら、泣きはせん。わしは小さいとき、少しも本を読まなかったので字がわからない。それがくやしくてないているのだ。ああ、こんなことなら、ちゃんと本を読んでいればよかった」
「なんだ、そんなことか」
みんなはあきれて、ものも言えません。
ちなみに、息子さんの手紙には、
《元気ではたらいているから、心配しないでください。近いうちに、お土産を持って帰ります》
と、書いてあったそうです。
おしまい
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