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日本のとんち話 第47話

こぼれる、こぼれる

こぼれる、こぼれる
石川県の民話

 むかしむかし、能登(のと→石川県)には、さんえもんという、とんちのきく人がいて、みんなからは「さんにょも」とよばれていました。
 村の男たちがあつまって酒もりをしていると、さんにょもが手ぶらでやってきて、
「わしも、なかまに入れてくれ」
と、えんりょなしに、酒をのみはじめました。
 ごちそうだって、えんりょなしです。
 そして、さんざん飲み食いすると、
「はい、ごちそうさん」
と、言って、さっさとかえってしまいました。
 その場にいた男たちは、カンカンです。
「なんだあいつ。手ぶらできたくせに、さんざん飲み食いしやがって」
「今度手ぶらできたら、入れないことにしよう」
「そうだ。酒を一升(いっしょう→1.8リットル)買ってこなけりゃ、仲間にしないといってやろう」
 それを聞いたさんにょもは、次の晩、男たちが酒もりをしている所へ手ぶらででかけていきました。
 でも、戸はピタリと閉められています。
「開けてくれ、さんえもんだ」
 すると、中にいる男たちは、
「酒を買ってくるまで、入れてやらん」
と、戸を開けてくれません。
 すると、さんにょもが、
「はやく開けてくれんと、こぼれそうじゃ、こぼれそうじゃ」
と、言ったのです。
「なんじゃ、それをはやく言え」
 男たちはてっきり、さんにょもが酒を買ってきたものと思って、いそいで戸をあけました。
 ところがさんにょもは、いつものとおりの手ぶらで入ってきたのです。
「なんだ、『こぼれそうじゃ』というから開けてやったのに、手ぶらでねえか。うそをついたな!」
「うそなもんか。わしはな、さむくてさむくて、鼻水が『こぼれそうじゃ』と、いうたまでよ」
 さんにょもはわざと鼻水をすすり上げると、またしても、ごちそうになったという事です。

おしまい

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