|
|
世界の恋物語 第2話
月の夜の訪問者
マケドニアの昔話 → マケドニアの国情報
むかしむかし、あるところに、なかのいい若者と娘がいました。
二人は日がしずむと、村はずれの川辺であっては、将来(しょうらい)のことをかたりあいました。
ある日、若者が仕事で旅にでることになったので、娘にしばらくの別れをつげて、自分の金の指輪(ゆびわ)をはずして、娘の薬指にはめてあげました。
「かえるときまで、これはきみがもっていてくれないか」
「うん。じゃあ、これを」
娘も、自分の指から銅の指輪をぬきとり、若者の小指にはめました。
「きっと、秋の収穫(しゅうかく)のころまでには、かえってくるからね」
若者は、そう約束をしました。
夏のあいだ、娘は毎日のように、若者とあっていた川辺にやってきては、シラカバの木にもたれ、たのしかった日びをおもいだしていました。
ところが秋になっても、若者は村にかえってきません。
金色の葉はすぐにおちてしまいましたが、それでも若者からは、なんのたよりもありませんでした。
村に初雪(はつゆき)がふった日、娘は友だちにさそわれて、ひと晩とまりにいきました。
ほかに友だちも二人きていて、四人でいっしょに糸をつむいだり、はなしをしたりして、とてもにぎやかに夜をすごしていました。
歌をうたったり、お菓子をたべたりしていましたが、そのうち話がはずんで、自分たちの恋人の話になりました。
そして、旅にでた若者をまちわびている娘がいいました。
「ねえみて、この金の指輪。あの人がわかれるときに、わたしの指にはめてくれたのよ。これをはずせる人なんて、この世にたった一人だけ、あの人しかいないのよ」
「でも、そんなにあなたをおもっているのなら、かえってきてもいいころなのにね。どうしたの? だいじなあなたのその人は」
と、友だちの一人がいいました。
「・・・・・・」
外は朝からの雪がふりつもって、あたりはまっ白です。
ソリのスズの音が、とおくからちかづいてきては、またとおざかっていきました。
「あのソリは、なんだろうね?」
「うちにくるかとおもうと、またいっちゃうし」
四人で糸をつむいだり、外をながめたりしていると、ちょうどま夜中になったころ、スズの音が家のそばまできてピタリとやみました。
「ねえ。さっきのソリがきたよ」
一人の娘がそういったとき、とびらをたたくものがいました。
こんな夜ふけにだれだろうと、みんなでおそるおそるまどの外をのぞいてみると。
「黒い外とうをきているわ」
「わかい男の人のようよ」
「どれ、わたしにも見せて」
そして娘がよくみると、旅にでた自分の恋人がたっていたのです。
「ごらんなさい! かえってきたのよ、わたしのいい人が!」
娘はよろこんでとびらをあけると、若者にとびつきました。
「まあ! すっかりひえてるじゃないの。こんなにつめたくなって。さあ、暖炉(だんろ)にあたって」
と、手をとって中にいれようとしましたが、若者は、火のそばにはいきませんでした。
「じゃあ、わたしといっしょに家にかえろう」
すると、娘の友だちは、
「こんな夜ふけだから、あしたにしたら」
と、ひきとめましたが、でも娘は、
「うん。でも、二人で家に帰るわ。糸つむぎのつづきは、またあしたにしましょう」
と、友だちにさよならをつげて、若者のソリに乗りました。
娘が若者にかたをよせたとき、若者のからだがあんまりつめたいのでビックリしましたが、若者の小指に銅の指輪をはめているので、ニッコリとほほえみました。
「さあ、あなたの家につれていって」
やがて雪がやんで、月の光があたりを銀色にてらしました。
二人は月の夜道をよりそって、ソリをはしらせました。
でもそれっきり、二人のすがたをみたものは、だれ一人ありませんでした。
おしまい
|
|
|