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        世界のふしぎ話 第5話 
         
          
         
空飛ぶトランク 
アンデルセン童話 → アンデルセン童話の詳細 
       むかしむかし、あるところに、大金持ちの商人がいました。 
   この商人は、町の道ぜんぶに銀貨をしきつめることができるくらい、たくさんのお金をもっていました。 
   けれどもむだづかいをせず、じょうずにお金をためていました。 
   ところがある時、この商人が死んで、ひとり息子が財産をそっくりもらうことになりました。 
   息子はお父さんとちがって、むだづかいが大すきです。 
   毎晩、舞踏会(ぶとうかい)へいったり、紙のお金でたこをつくってたこあげをしたり、金貨を水になげて遊んだりしていました。 
   これでは、いくらお金があってもたりません。 
   とうとう息子は、すっかり貧乏(びんぼう)になってしまいました。 
   着るものも古いねまきだけ、足にはスリッパです。 
   お金がなくなると、もう、友だちはだれもあいてにしてくれません。 
   けれど、たったひとりだけ、 
  「荷物でも、入れたまえ」 
  と、古いトランクをもってきてくれた友だちがいました。 
  「なんて、しんせつなやつなんだろう」 
   息子はよろこびましたが、中に入れる荷物など、今はひとつもありません。 
  「よし、荷物がないなら、ぼくを入れちまえ」 
   息子はふざけて、トランクの中に入りました。 
   それからカギのところをおしてみますと、とたんにビューッと、トランクが空にとびあがったのです。 
  「うわっ、これは、魔法のトランクだったんだ!」 
   息子は、ビックリしました。 
   トランクはどんどん高く、遠くへとんでいきます。 
   とんでとんで、トランクはトルコの国までとんでいって、やっと下におりました。 
   息子は森の中のかれ葉の下にトランクをかくすと、町のほうへいってみました。 
   息子のかっこうは、ねまきにスリッパのままでしたが、だれからもへんに思われません。 
  「よかった。この国ではみんな、このねまきのような長い服を着ているんだな」 
   息子が安心して町を歩いていると、へんなお城が見えてきました。 
   まどがずっと上のほうの、屋根の近くにしかついていないお城なのです。 
   息子が通りかかった女の人に聞いてみますと、女の人はこう教えてくれました。 
  「ああ、あそこには、かわいそうなお姫さまがいるのよ。お姫さまは好きな人のために不幸になるという、おつげがあってね。王さまはお姫さまがだれも好きにならないように、あんなところにとじこめたのさ」 
   息子はその話を聞くと、すぐ森に引き返しました。 
   そしてトランクを出すと、また空を飛んで、お城のお姫さまの部屋まで行ってみました。 
   お姫さまは、とてもきれいで、息子はたちまち好きになってしまいました。 
  「ぼくはトルコの神さまです。空を飛んでここにきました」 
  と、息子がいうと、お姫さまはとても喜びました。 
   おつげにあったのは、人を好きになったときで、神さまなら好きになっても大丈夫です。 
   息子とお姫さまはすっかりなかよくなって、結婚の約束をしました。 
  「でもそのまえに、わたしのお父さまとお母さまに、とてもおもしろいお話をしてあげてください。そうしたら、二人ともあなたが気に入るでしょうから」 
   お姫さまはそういうと、息子に金貨のちりばめてある刀をくれました。 
   息子は森に帰ると、おもしろいお話を考えました。 
   それから刀の金貨で、りっぱな服を買いました。 
   息子がまたお城にいきますと、王さまも、おきさきさまも、大臣も、えらい人たちがみんな集まっていました。 
  「では、これからマッチの物語をします」 
   息子は台所におかれたマッチのじまん話や、おなべやお皿やほうきやカゴの話をしました。 
   話のさいごは、マッチをパッと小さな花火のようにもやしておわりました。 
  「これは、おもしろい。いい話だった」 
   王さまも、おきさきさまも、息子の話がとても気に入りました。 
   もちろん息子も気に入られて、大よろこびです。 
   さあ、つぎは結婚式です。 
   結婚式のまえの晩は、町じゅうがおまつりさわぎでした。 
   おいしいパンやビスケットが、町の人びとにくばられました。 
   子どもたちはよろこんで、口笛をふきました。 
   息子も、ジッとしてはいられません。 
   そこでいろいろな花火をたくさん買ってくると、それをトランクに入れて、空高くとびあがりました。 
   シュー、シュルシュル、パパン、パン! 
   花火がいくつも空ではじけるのを見て、町の人たちはビックリしていいました。 
  「やっぱり、お姫さまのおむこさんは、えらい神さまだ」 
   息子はトランクからおりて、また森の中にかくすと、町の人びとのうわさを聞きにいきました。 
   みんなは、空とぶトランクや息子のようすを、 
  「神さまは、星のような目をしていた」 
  「火のマントを着てとんでいた」 
   それぞれにちがうことをいっていましたが、 
  「とにかく、すばらしかったよ」 
  と、さいごには、かならずいうのでした。 
   息子は、うれしくなって森に帰りました。 
   ところが、たいへんなことがおこりました。 
   花火の火の粉がもえあがって、トランクをすっかりもやしてしまったのです。 
   息子は、もうお姫さまのところへとんでいくことができません。 
   かわいそうに、お姫さまはずっと息子をまっていました。 
   きっと、いまでもまっていることでしょう。 
      おしまい 
         
         
        
       
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