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世界のふしぎ話 第6話
リップ、バン、ウィンクル
アメリカの昔話 → アメリカの国情報
むかしむかし、アメリカのハドソン川の近くの村に、リップ・バン・ウィンクルという男がすんでいました。
リップは、うちのしごとをするのが大きらいで、いつも村のなかをプラブラしていました。
ですから、リップの家は村でいちばんびんぼうで、リップの息子や娘たちは、ボロボロの服をきていました。
リップのおかみさんは、ひまさえあると、
「このなまけもの!」
と、リップをどなりつけていました。
おかみさんにしかられると、リップはコソコソと家をにげだします。
そして鉄砲(てっぽう)をかたにかつぎ、ウルフというイヌをつれて山へかりにでかけるのです。
ある日、リップはウルフと山のなかをはしりまわっていましたが、いつのまにか、けわしい山にまよいこんでしまいました。
リップとウルフは、草の生えた丘にこしをおろしてやすみました。
まもなく、夕ぐれです。
リップの村は、ずっととおくに小さくかすんで見えます。
家ではおかみさんが、はらをたててまっていることでしょう。
そのとき、だれもいない山の谷ぞこから、
「おーい。リップやーい」
と、よぶこえがしました。
ききちがいかなと、リップが思ったとき、また谷ぞこから、
「おーい。リップやーい」
と、はっきりきこえてきました。
谷を見おろすと、だれかがおもそうなものを背中にかついで、谷川をのぼっています。
ウルフは、なぜかこわそうに、リップにからだをよせてきました。
リップはしんせつな男でしたから、てつだってあげようと思って、谷をかけおりました。
谷川をのぼっている人を見て、リップはビックリしました。
白いあごひげを胸までたらした、リップの知らないおじいさんです。
きている服もかわっていて、なんだか、むかしの人がきていた服のようです。
おじいさんは、酒の大きなタルをかついでいました。
リップがちかづくと、「いっしょにはこんでくれ」と、あいずをしました。
おじいさんとリップは酒ダルをかついで、水がかれた谷川をのぼっていきました。
しばらくすると、
ゴロゴロゴロー!、
カミナリの音が、ひびいてくるようになりました。
まもなく谷川がゆきどまり、高いがけにかこまれた広場に出ました。
二人は、そのなかへはいっていきました。
「あっ!」
リップは、おどろきの声をあげました。
広場では、おじいさんたちがおおぜいで、ボーリングをしてあそんでいます。
カミナリの音と思ったのは、じつはボーリングのボールをころがす音だったのです。
おじいさんたちはみんな、むかしの服をきて、こしには小刀(こがたな)をさしています。
長い白いひげをたらし、はねかざりのついたぼうしや、とんがりぼうしをかぶった人もいました。
みんなはボーリングをやめて、リップをジロリと見ました。
みんな、死人のようにあおい顔ばかりです。
リップはおそろしくなって、ガタガタとふるえました。
いっしょに来たおじいさんは、酒ダルから大ビンに酒をつめかえました。
そして酒をついでまわるようにと、リップにあいずをしました。
リップがコップに酒をつぐと、みんなはだまったまま、ゴクンゴクンとのみほします。
それからまた、ボーリングをはじめました。
リップは酒が大好きだったので、おじいさんの目をぬすんでひと口のんでみました。
するとその、おいしいこと。
たちまち、二はい、三ばい、と、のんでいるうちに、よっぱらってしまいました。
そしていつのまにか、ぐっすりと、ねむってしまったのです。
朝になり、リップが目をさますと、あのおじいさんとはじめてあった丘の上でねていました。
「ウルフ、ウルフ」
リップがイヌの名をよびましたが、どこからも出てきません。
足もとに鉄砲がころがっていましたが、それはリップのあたらしい鉄砲ではなく、茶色にさびたボロボロの鉄砲でした。
「あのじいさんどもに、イヌと鉄砲を取られてしまった」
腹を立てたリップは、きのうの広場へでかけることにしました。
「よいしょっ」
立ちあがろうとしますと、からだのぐあいが悪いのか、力がぬけたような感じです。
(まだ、酒によっているのかな?)
リップは、谷川へおりていきました。
すると、どうでしょう。
きのうまでかれていた谷川に、水がごうごうとながれており、谷川をのぼっていくことができません。
とおまわりをして、なんとかリップは村へもどりましたが、じぶんの家がどこにあるのかわかりません。
それというのも、たった一晩のあいだに家がものすごくたくさんふえて、村のようすが、すっかりかわっているのです。
そのうえ、村にはリップが知っている人が一人もいません。
なんとかして、やっとリップの家がみつかりました。
けれども庭には草がボウボウとはえ、屋根も庭もこわれかけています。
(これはいったい、どうしたことだ? ・・・そうだ、家族たちはぶじか!)
リップは家のなかへとびこみましたが、なかには、おかみさんも息子も娘も、だれもいません。
リップは家をとびだし、村のなかをあるきまわりました。
まもなくリップは、村の人びとにとりかこまれました。
そしてその中の一人が、リップに聞きました。
「鉄砲などもって、どうしたのじゃ? おじいさん、あんたはどこのだれかね?」
「おじいさん? なにをいう。わたしはまだ、わかいですよ」
リップがいうと、人びとはリップの胸のあたりをゆびさして、わらいあうのです。
リップも、じぶんの胸を見ました。
すると、どうでしょう。
いつのまにか、長くて白いひげが胸までのびているではありませんか。
何と、知らない間に、リップはおじいさんになっていたのです。
「そっ、そんな! ・・・だれか、だれかリップ・バン・ウィンクルを知っている人はいませんか?」
リップはすっかりおどろいて、大声でさけびました。
そのとき、わかい女が赤ん坊をだいてすすみでました。
「それはわたしの父です。二十年もまえ、山へいったまま、かえってきませんでした」
リップは娘のところへかけよると、さけびました。
「わたしが、そのリップだよ!」
リップは、人びとにきのうのできごとをはなしました。
すると、ひとりの老人がいいました。
「おまえさんが出あったのは、むかしこのあたりを探検(たんけん)した、ハドソン船長たちのゆうれいにちがいない。二十年ごとにかならず見まわりにくるという、いいつたえがあるんじゃ」
「・・・そんな」
おどろいたことに、リップがねむっているあいだに、二十年もたっていたのです。
それからリップは娘の家にひきとられて、しあわせにくらしました。
おしまい
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