|
|
世界のこわい話 第10話
なんでものみこむかいぶつ
ロシアの昔話 → ロシアの国情報
むかしむかし、あるところに、ロザリーというかわいい娘さんがいました。
ロザリーには三人のにいさんがいましたが、それぞれお嫁さんをもらい、べつの家でくらしていました。
だからロザリーは、森のちかくのちっぽけな家で、一人ぼっちですんでいました。
さて、その森の中にはこまったことに、ウービルという、みあげるほど大きな女のかいぶつがすんでいました。
いつもおなかをすかせていて、人間だろうと動物だろうと、手あたりしだいにのみこんでしまうのです。
ロザリーは、ひさしぶりににいさんたちにあいたくなりました。
そこで朝はやくから、おみやげにもっていくケーキをやきました。
やきあがったケーキをテーブルの上のカゴにつめると、馬車(ばしゃ)をひくウマをだしに馬小屋にいきました。
そこへ、おなかをすかせたウービルがやってきたのです。
「おや? クンクン。いいにおいがする」
ウービルはながい鼻をヒクヒクさせながら、そこらをかぎまわりました。
いいにおいは、ロザリーの家の台所からながれてくるので、ウービルは台所のまどにかけよると中をのぞきました。
そこには、ケーキのつまったカゴがテーブルにのっています。
「これは、いいものがある」
ウービルはまどをおしあげると、カゴをつかんでそのまま口の中へほうりこみました。
おいしいケーキにありついたウービルは、ほんのすこしだけまんぞくして、森のほうへ帰って行きます。
さて、ロザリーが台所にもどってみると、まどがあいていて、ケーキがカゴごとなくなっているではありませんか。
(これはきっと、ウービルのしわざだわ)
ロザリーはしかたなく、もういちどケーキをやいて、べつのカゴにつめました。
それから馬車にのって、まず、いちばん上のにいさんの家へいきました。
ところがいくらもすすまないうちに、うしろで大声がしました。
「ロザリー、おまち! あたいの口からよだれがこぼれて、とまらないんだよ!」
ロザリーがビックリしてふりかえると、ウービルがおいかけてきます。
ウービルはあっという間に、馬車のうしろにやってきました。
ロザリーはカゴからケーキを一つ取り出すと、思いっきりうしろへとなげました。
ウービルは立ちどまって、それをひろいます。
(いまのうちだわ!)
ロザリーはまえよりもはやく、馬車をはしらせました。
でもウービルは、ケーキを口にほうりこむなり、ふたたび馬車をおいかけました。
ウービルと馬車のあいだは、みるみるちかづいていきます。
「ロザリーおまち! あたいのおなかはまだまだペコペコだよ」
ロザリーはまた一つ、ケーキをなげました。
ウービルはたちどまって、ケーキを口にほうりこみ、すぐ馬車のうしろまでおいついてきました。
一つ、また一つ、うしろへケーキをなげているうちに、とうとうカゴはからっぽになりました。
ロザリーはおもいきって、からのカゴをなげました。
ウービルはカゴをひろって、それものみこみました。
「ロザリーおまち! こんどはおまえを食べてあげるから」
ロザリーは馬車からとびおりるなり、車りんをひとつはずしてうしろへころがしました。
ウービルは立ちどまって、それをひろいあげました。
そのすきにロザリーは馬車にのり、ウマにムチをいれました。
車りんの三つしかない馬車は、ガタゴトゆれながらも、どうにかはしりました。
ウービルは車りんをのみこんでしまうと、ふたたび馬車をおいかけました。
「ロザリーおまち! おなかがすいて、あたいの胃ぶくろはゴロゴロなってるんだよ」
ロザリーは、つぎつぎと車りんをはずしました。
ウマは車りんのない馬車をひきずってはしりました。
それでもウービルは、車りんをのみこんでしまうと、すぐにおいついてきました。
ロザリーは馬車からとびおりると、ウマをはずしてその背中にのりました。
さすがのウービルも、馬車をのみこむには、じかんがかかります。
大きな口へ馬車をおしこんでいるすきに、ロザリーをのせたウマはドンドンさきへすすみました。
でも、ウービルはあきらめません。
ついに馬車を飲み込んだウービルは、再びロザリーを追いかけました。
「ロザリーおまち! おまえをたべるまでは、あきらめやしないよ」
ウービルの手が、ウマのしっぽをつかみました。
ロザリーはウマからころがりおちると、むちゅうではしりました。
ウービルはウマをつまみ上げると、ゴクリと飲みこみました。
ところがウマは、ウービルのおなかの中で大あばれします。
ウービルは気持ちがわるくなり、ウマをはきだしてしまいました。
ウマはクルリとむきをかえ、家のほうへかけていきました。
ウービルは、またもやロザリーをおいかけました。
ロザリーはつかまりそうになると、頭にかぶっていたスカーフをなげ、ふくをなげ、クツやクツしたをなげました。
ウービルはそのたびに足をとめて、口の中へほうりこみました。
そのうちにあたりがくらくなり、夜になりました。
「ロザリーおまち! おや、どこへいったの? ・・・まったく、こうくらくては、わかりゃしない」
ロザリーはくらやみにまぎれて、あっちこっちとにげまわり、やっとのことでいちばん上のにいさんの家にたどりつきました。
ロザリーは、おもての戸をたたいていいました。
「にいさん、戸をあけて! わたしよ、いもうとのロザリーよ。かいぶつがそこまできているの!」
ベッドでねていたにいさんは、戸の音にビックリしてとびおき、ロウソクに火をつけました。
ロザリーはすっかりつかれていて、声がガラガラです。
だからにいさんには、どうしてもいもうとだとはおもえませんでした。
カギあなからそとをのぞくと、はだしの足がみえました。
「ロザリーだなんてとんでもない! わしのいもうとはとてもぎょうぎのいい娘だ。夜なかにはだしでくるわけがない」
にいさんは、ベッドへもどってしまいました。
「ああ、だめだわ」
ロザリーはおおあわてで、二ばん目のにいさんの家へいき、ドンドンと戸をたたいていいました。
「にいさん戸をあけて! わたしよ。いもうとのロザリーよ。かいぶつにおわれて、ふくもクツもとられてしまったの」
ねむったばかりのところをおこされたにいさんは、ひどくふきげんで、ベッドをおりもしないでさけびました。
「こんな夜なかにおこすやつはだれだ! なにがロザリーなもんか。わしのいもうとはそんなガラガラ声じゃない。さっさときえうせろ!」
そのとき、ウービルの足音がせまってきました。
「ああ、ここもだめだわ」
ロザリーはまたかけだして、こんどは三番目のにいさんの家にいって、おもての戸をドンドンたたきました。
「にいさん、戸をあけて! わたしよ。いもうとのロザリーよ。ああ、はやく! かいぶつがもうそこまで」
そのとき、にいさんはおかみさんとしごとをしていました。
「どこかの娘がいもうとにばけて、いれてほしいといっているぞ」
「あんなひどい声でロザリーだなんてとんでもない。はやくあっちへいくようにいってちょうだい」
おかみさんが、イライラしていいました。
「でもひょっとしたら、どこかの娘さんがとまるところがなくて、こまっているのかもしれない。中にいれてやろうか?」
「とんでもない! ドロボウかもしれないわ」
そのとき、またロザリーがいいました。
「おねがいだから戸をあけて。声はガラガラでも、まちがいなくいもうとのロザリーよ」
にいさんはそっとまどをあけてみましたが、くらくてそこにだれがいるのかよくわかりませんでした。
それでも、心のやさしいにいさんはいいました。
「誰だか知らないけど、こんな夜なかに家へいれるのはむりだよ。でもよかったら、なやの中でおやすみ」
ロザリーはあわてて、なやにとんでいきました。
そこヘ、ウービルがやってきました。
「おお、いたいた。あたいのだいすきな食べ物」
ウービルは大きな手をのばして、ロザリーのかみの毛をつかみました。
「やめて!」
ロザリーは身をよじってにげると、ウービルの手の中にかみの毛をひとふさのこしたままなやにかけこみ、中からカギをかけました。
「あれ? あたいの食べ物はどこへきえた?」
ウービルは、くらがりの中をさがしまわりました。
あるくたびに地面がゆれ、イヌがほえはじめました。
「やっぱり、あの娘はかいぶつにおわれていたのだ」
にいさんとおかみさんはまどをあけて、にわをみました。
なやの戸をガタガタゆすっていたウービルは、ようやくあきらめたらしく、ロザリーのかわりにほえているイヌをつかんで、頭からのみこんでしまいました。
「あたいのロザリー、あたいの食べ物」
ウービルはわめきながら、くらやみにきえていきました。
朝になって、にいさんはすぐになやへいきました。
中からカギがかかっているので、まどへよじのぼってとびこみました。
するとワラの上に、いもうとのロザリーが下着一まいでたおれていました。
「ロザリー、おまえだったのか!」
にいさんはロザリーをだきかかえると、家の中にはこびました。
「おい、みてみろ。これがドロボウかよ。これがロザリーにばけた娘かよ。ああ、あのとき戸をあけてやるんだった」
「ごめんね、ロザリー」
おかみさんもこうかいして、ロザリーをベッドにねかせて、口にワインをながしこんであげました。
ロザリーのほほに赤みがさし、やがていきをふきかえしました。
「よかった」
ロザリーは、おそろしかったゆうべのことを、のこらずにいさんにはなしました。
「大事な妹にひどいことをするなんてゆるせない。あいつをやっつけるまでは、家にもどってこないぞ」
にいさんはこのことをつたえに、二人のにいさんのところへいきました。
「それじゃ、ゆうべたずねてきた娘は、ロザリーだったのか」
そこで三人そろって、ウービルのいる森へでかけました。
三人はあたりに気をくばりながら、かくれるようにして、おくへとすすんでいきました。
すると大きな木の下に、ウービルが大の字になってねむっていました。
「さあ、はやく木にのぼれ」
一番上のにいさんがいいました。
きょうだいはそっと木にのぼると、ねむっているウービルの頭めがけて、鉄砲(てっぽう)をかまえました。
「それっ!」
かけ声とどうじに、いっせいに玉がとびだしましたが、ウービルは鉄砲の玉があたっても平気で、目をさましただけでした。
「おや? 木の上に朝ごはんがいる。さあ、おりといで」
ウービルはおきあがって、木のみきをだきかかえると、ユサユサとゆさぶりました。
きょうだいたちはひっしでふんばり、鉄砲をうちつづけました。
それでもウービルは、大きな口をあけて、とんでくる玉をうまそうにのみこみます。
ウービルはだきかかえていた木をひきぬき、ねもとから口の中へつめこみはじめました。
「ああ、もうおしまいだ! もう玉がない!」
一番目のにいさんと二番目の兄さんは、あきらめて鉄砲をなげだしてしまいました。
そのとき、三番目のにいさんは、おまもりがわりにもっている銀貨をおもいだしました。
その銀貨を鉄砲につめ、
「神さま、どうかおたすけください」
と、いのると、ウービルのおなかめがけてうちこみました。
「ウギャアアアー!」
ものすごいさけび声とともに、ウービルがドシンとたおれました。
「やった。ウービルをやっつけたぞ!」
にいさんたちは、手をとりあってよろこびました。
にいさんたちの知らせをきいて、ロザリーもとびあがってよろこびました。
「ありがとう。これでもう、安心してくらせるわ」
ロザリーはにいさんたちにわかれをつげると、森のちっぽけな家にもどってきました。
むかえてくれたのは、ウービルがはきだしたウマだけです。
でも、ロザリーの一人ぐらしは、ながくはつづきませんでした。
間もなくロザリーは、お金持ちの息子と結婚して、しあわせにくらしたのです。
おしまい
|
|
|