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世界のとんち話 第12話
あなたの大切な物
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むかしむかし、まずしい農家に、とてもかしこい娘がいました。
王さまに気に入られた娘は、王さまと結婚して王妃(おうひ)さまとなりました。
娘が王妃さまとなって、何年かがすぎたある日のことです。
まきを売りにきた農民たちが、空の荷車を止めてきゅうけいしていました。
すると、とある荷車を引いているウマが急に産気(さんけ)づき、かわいい子ウマをうんだのでした。
しかし何を思ったのか、その子ウマは、となりにいた別の荷車のウシをお母さんとかんちがいして、そのウシのそばに座りこんでしまったのです。
するとウシの飼い主が、子ウマは自分のものだと言い出して、ウマの持ち主とけんかを始めたのです。
そこヘ現れたのが、王さまでした。
ウマの飼い主とウシの飼い主が、それぞれ王さまにうったえました。
「うちのウマが子ウマをうんだのです。あの子ウマはうちのウマです」
「いいえ。うちのウシが子ウマをうんだのです。そのしょうこに、子ウマはうちのウシからはなれようとしません」
ウシの持ち主のいいぶんはムチャクチャでしたが、王さまはこういったのです。
「子どもはお母さんをしたうもの。子ウマがウシをしたっているのなら、子ウマのお母さんはウシに間違いない」
こうして子ウマは、ウシの持ち主のものになったのでした。
せっかく産まれた子ウマをとられたウマの持ち主は、その場でいつまでもくやし泣きをしていました。
それを見ていた王妃が、ウマの持ち主に近寄ります。
彼女はウマの持ち主に、あるアイデアを教えました。
そして、そのアイデアが決して、彼女の考えだといわないと約束させたのです。
さて次の日。
王さまが道を歩いていると、町の広場でウマの持ち主が魚取りのアミで魚をとろうとしていました。
ふしぎにに思った王さまが尋ねると、ウマの持ち主はいいました。
「ウシに子ウマがうめるものなら、町の広場で魚だってとれるはずです」
このあてつけに、王さまはおこりました。
「おまえの考えではあるまい。誰がそんなことを思いついた」
「へい、じつは・・・」
ウマの持ち主は、本当のことを白状してしまいました。
すると王さまは、妃の所へどなりこみました。
「わしをだますような妃はいらん! 自分の大切なものをひとつやるから、出ていけ!」
そしてふたりは、さいごにお別れの酒をくみかわしました。
「これでそなたとは、おわかれだな・・・」
「そうですわね」
「妃よ・・・」
「はい」
「・・・その、わしに、なにか言うことはないのか?」
「別に、なにもありません」
「・・・そうか」
王さまは自分の言ったことに後悔(こうかい)していましたが、妃があやまろうとしないので、言葉を取り消すことができません。
王さまはションボリしていましたが、妃はというと、あれあれ、目がわらっていますね。
きっと、またなにかを、たくらんでいるのでしょう。
王さまはそんな妃には気づかず、かなしさをまぎらわそうと、盃(さかづき)のお酒を一気にのみほしました。
じつはそのお酒、妃が眠り薬を入れていたのです。
次の朝、王さまが目覚めたのは、きたない農家のベッドの上でした。
ここは、妃の実家です。
「いったい、これは何のまねだ?」
王さまが妃にたずねると、妃はニッコリ笑っていいました。
「王さまはわたしに、一番大切なものをひとつやるといいました。ですからわたしは、わたしの一番大切な王さまをいただいてきただけですわ」
この言葉にすっかり感動した王さまは、自分の裁判(さいばん)が間違いだったことをみとめると、あのウマの持ち主に十頭の子ウマをやることを約束し、そのまま妃と仲よくお城へ帰りました。
おしまい
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