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9月5日の世界の昔話
  
  
  
  かくれんぼに勝った若者
  ロシアの昔話 → ロシアの国情報
 むかしむかし、やさしい若者が旅をしていました。
   ある日、川に出ると、見たこともないほど美しい赤いさかながアミにかかっていました。
  「かわいそうに」
   若者は、さかなを川に逃がしてやりました。
   するとさかなは、からだのトゲを一本くれました。
  「こまったことがあったら、これを出してよんでください。おんがえしにいきますから」
   つぎに若者は、猟師(りょうし)におわれるシカにあいました。
   若者は、シカを木のほら穴にかくしました。
   猟師があきらめて帰ってしまうと、シカはお礼に、毛を一本くれました。
  「こまったことがあったら、これを出してよんでください。おんがえしにいきますから」
   しばらくいくと、タカにおわれて、ヘトヘトになったツルが落ちてきました。
  「このらんぼう者め!」
   若者は、タカにつえを投げておいはらいました。
   ツルは、うれしさに涙を流し、お礼に羽根を一本くれました。
  「こまったことがあったら、これを出してよんでください。おんがえしにいきますから」
   また少しいくと、キツネが逃げてきました。
   後ろから、イヌが追いかけてきます。
   若者はキツネを、上着の下にかくしてやりました。
   イヌが通りすぎると、キツネは毛を一本くれました。
  「こまったことがあったら、これを出してよんでください。おんがえしにいきますから」
   やがて若者は、大きなお城のある町にたどりつきました。
   若者が、お城にすむ王さまはだれかとたずねると、町の人は答えました。
  「お城には、とても美しいお姫さまが住んでいます。お姫さまとかくれんぼをして見つからずにすんだ人が、おむこさんになれるのです」
  「それはおもしろい。ぼくもやってみよう」
   お姫さまは、ほんとうに美しい人でした。
  「あなたと結婚したいのです」
   若者がいうと、お姫さまはこたえました。
  「わたしに見つからないようにかくれなさい。でも失敗(しっぱい)したら、あなたは首をきられるのよ」
  「かまいません。ただ、四回かくれてもいいですか?」
  「ええ。いいわ」
   若者はさっそく、トゲを出してさかなをよびました。
  「おやすいご用です。背中におのりなさい」
   さかなは若者を、海の底にかくしました。
   ところがお姫さまは魔法のカガミをのぞきこみ、若者のかくれ場所(ばしょ)をつきとめてしまいました。
  「見つけたわ! 見つけたわ!」
   お姫さまのわらい声が、若者の耳にとどきました。
   若者のたすけたシカは、七つの山をこえた、はるかとおくのほら穴につれていってくれました。
   若者のたすけたツルは、空のはてに飛び、大きなくもの上にかくしてくれました。
   それでも、
  「見つけたわ! 見つけたわ!」
   魔法のカガミを持っているお姫さまには、どうしてもかないません。
   若者は、しんぱいになってきました。
   キツネをよび出した若者は、青い顔でいいました。
  「たいへんなんだ、キツネくん。今度見つかったら、ぼくは首を切られてしまう」
  「だいじょうぶ。わたしにまかせてください」
   キツネはいうと、長い長いトンネルをほりはじめました。
   トンネルの先は、なんと、お姫さまのすわっているイスの下でした。
   若者はキツネにいわれたとおり、そこでジッとしていました。
  「今度もきっと見つけるわ」
   お姫さまは、カガミをのぞきました。
   ところが地のはて、空のはて、海の底をさがしても、若者の姿は見えません。
   お姫さまは、とうとうさけびました。
  「見つからないわ! わたしの負けよ。どうか、出てきてちょうだい!」
  「はい。ここにいますよ」
   若者がお姫さまのイスの下から出てくると、お姫さまはうれしそうにわらいました。
  「まあ、あなたって、なんて頭がいいんでしょう。すてきだわ。わたしと結婚してくださる?」
  「よろこんで。お姫さま」
   こうして若者は、お姫さまのおむこさんになったのでした。
おしまい