心がジーンとする 世界の感動話 ☆福娘童話集☆ 童話・昔話・おとぎ話の福娘童話集
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世界の感動話 第26話

亡霊の恩返し

亡霊の恩返し
中国の昔話 → 中国の国情報

 むかしむかし、中国の山東省(さんとうしょう)というところに、許(きょ)という漁師がいました。
 許は、とてもお酒がすきで、毎晩、川に出かけては、さかなをとるアミをうちながら、ゆっくりお酒を飲んでいました。
 でも、許のお酒の飲みかたは、少しかわっています。
 まず、自分がさかずきで飲んでから、ほんのちょっと地面にたらします。
 そして、
「まあ、お飲みなさいよ」
と、まるで友だちにすすめるようにいうのです。
 これには、わけがありました。
 ながいあいだ漁師をやってきた許は、そのあいだに、ずいぶん友だちを川でなくしました。
 お酒をたらすのは、その人たちへの、心ばかりのささげものだったのです。
 ある夜のことです。
 川岸を、一人の若者が通りかかりました。
「いかがです。川を見ながら、一ぱい飲みませんか?」
 許は、お酒の相手がほしいと思っていたので、若者に声をかけました。
 すると若者はうれしそうに、許の横に腰をおろしました。
 その夜、二人はまるで、むかしからの友だちのように、お酒をくみかわしました。
 そろそろ夜が明けようとした時、許は、まだ一ぴきもアミにさかながかかっていないことに気がつきました。
「これはこまったな。女房になんていおう」
と、ガッカリしていると、ふいに若者が消えて、そのかわり許のアミには、ピチピチと、たくさんのさかながかかりました。
「これは!」
 許がビックリしていると、また若者があらわれて、
「ほんの、お礼のしるしです」
と、いいました。
 許は、ふしぎな若者だなと思いましたが、何よりもさかながとれたのがうれしくて、何度も何度もお礼をいいました。
 すると若者はわらって、
「いいえ、今までに、ずいぶんお酒をごちそうになりましたから」
と、いうのです。
「今までにだって? そんなはずはない。あなたとお酒を飲んだのは、初めてのはずだが・・・」
 許がおどろいていると、若者はかさねていいました。
「それに、これからも友だちとして、おつきあいさせてもらいたいので」
「おお、それはもちろん。こちらからおねがいしたいくらいだ。そうだ、あなたのお名まえは?」
「王六郎(おうろくろう)と、おぼえておいてください」
 若者はかるく頭をさげると、足ばやにどこかへいってしまいました。
「ふしぎな若者だな・・・。おおっ、それよりさかなさかな」
 許はさっそく、とれたさかなを市場にもっていきました。
 さかなはどれもみごとなものばかりで、とぶように売れてしまいました。
 許と若者は、それから毎晩、川で酒をくみかわしました。
 半年くらいすぎたある晩、いつものようにやってきた若者は、
「いろいろお世話になりましたが、今日でおわかれしなくてはなりません」
「おわかれですって? それはまた、どうしてです?」
 許がたずねると、若者は心をきめたように、まっすぐ許を見ていいました。
「じつは、わたしはこの川の亡霊(ぼうれい)なのです。わたしはお酒がとてもすきで、毎日のように飲んでいました。そのために、川にころげおちて死んだのです。亡霊になってもお酒を飲みたいと思ったので、あなたが川岸にお酒をたらしてくださったことが、どんなにうれしかったか。そのお礼がしたくて、ここへやってきたのです」
「それなのに、どうしておわかれしなくてはならないのですか? これからもいっしょに飲みましょう」
 許がいうと、若者はうれしそうにこたえました。
「実は、お酒の失敗がゆるされて、もう一度、この世に生き返ることになったのです」
「ほう、それはめでたい!」
 許がお酒をすすめると、若者はつづけていいました。
「しかし、わたしが生き返るかわりに、明日のお昼ごろ、だれかが川におちて死ぬことになっているのです」
 つぎの日、若者のいったことが本当かどうか、許は川へいってみました。
 するとそこへ、赤ん坊をだいた女の人がやってきて、あっというまに足をすベらせてしまいました。
 赤ん坊は、とっさに岸へなげ出されましたが、女の人は、グングンと急流に流されていきます。
「こまったぞ! あの人が若者のかわりらしい。助けてやりたいが、そうすれば若者は、生き返ることができないし」
 許がウロウロしていると、川の流れが急にかわって、女の人は浅瀬にうちあげられました。
 その夜、若者は川にやってきました。
「わたしは、女の人をおぼれさせることができませんでした。もう、亡霊のままでいることにします」
「そうか。でも、あんたは立派だよ!」
 許は、若者をなぐさめてやりました。
 ところがある晩、若者がやってきていいました。
「許さん、今度こそおわかれです」
「なんだ? また、身がわりがきまったのですか?」
「いいえ。あの女の人を助けたことが神さまの耳に入って、わたしは遠い町のまもり神になることがきまりました。生き返ることはできないけれど、生きている人のいのちをまもる、とても大切な仕事です。これからまいります。あなたもお元気で。ご恩はわすれません」
 それっきり、若者は川にはあらわれませんでした。

おしまい

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