きょうの日本昔話
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2月3日の日本の昔話

節分の鬼

節分の鬼

 むかしむかし、ある山里に、ひとりぐらしのおじいさんがいました。
 この山里では今年もほうさくで、秋祭りでにぎわっていましたが、だれもおじいさんをさそってくれるものはおりません。
 おじいさんは、祭りのおどりの輪にも入らず、遠くから見ているだけでした。
 おじいさんのおかみさんは、病気で早くになくなって、ひとり息子も二年まえに病気で死んでいました。
 おじいさんは、毎日、おかみさんと息子の小さなおはかに、おまいりすることだけが楽しみでした。
「かかや、息子や、早くおむかえにきてけろや。極楽(ごくらく→天国)さ、つれてってけろや」
 そういって、いつまでもいつまでも、おはかの前で手をあわせているのでした。
 やがて、この山里にも冬がきて、おじいさんの小さな家は、すっぽりと深い雪にうもれてしまいました。
 冬のあいだじゅう、おじいさんはおはかまいりにも出かけられず、じっと家の中にとじこもっています。
 正月がきても、もちを買うお金もありません。
 ただ、冬がすぎるのを待っているだけでした。
 ある晴れた日、さみしさにたえられなくなって、おじいさんは雪にうまりながら、おかみさんと息子に会いに出かけました。
 おはかは、すっかり雪にうまっています。
 おじいさんは、そのおはかの雪を手ではらいのけると。
「さぶかったべえ。おらのこさえたあまざけだ。これ飲んであったまってけろ」
 おじいさんはあまざけをそなえて、おはかの前で長いこと話しかけていました。
 帰るころには、もう、日もくれていました。
 暗い夜道を歩くおじいさんの耳に、子どもたちの声が聞こえてきます。
は〜、外! 福は〜、内!」
「鬼は〜、外! 福は〜、内!」
 おじいさんは、足を止めてあたりを見まわしました。
 どの家にも明かりがともって、楽しそうな声がします。
「ほう、今夜は節分(せつぶん)じゃったか」
 おじいさんは、息子が元気だったころの節分を思いだしました。
 鬼の面をかぶったおじいさんに、息子が豆を投げつけます。
 息子に投げつけられた豆のいたさも、いまでは楽しい思い出です。
 おじいさんは家に帰ると、おし入れの中から、古いつづらを出しました。
「おお、あったぞ。むかし息子とまいた節分の豆じゃあ。ああ、それに、これは息子がわしにつくってくれた鬼の面じゃ」
 思い出の面をつけたじいさんは、あることを思いつきました。
「おっかあも、かわいい息子ももういねえ。ましてや、福の神なんざにゃ、とっくに見はなされておる」
 こう思ったおじいさんは、鬼の面をかぶって豆をまきはじめました。
「鬼は〜内、福は〜外。鬼は〜内、福は〜外」
 おじいさんは、わざとアベコベにさけんで、豆をまきました。
「鬼は〜内、福は〜外」
 もう、まく豆がなくなって、ヘタヘタとすわりこんでしまいました。
 そのとき、おじいさんの家にだれかがやってきました。
「おばんでーす。おばんです」
「だれだ。おらの家になにか用だか?」
 おじいさんは、戸をあけてビックリ。
「わあーーっ!」
 そこにいたのは、赤鬼と青鬼でした。
「いやー、どこさいっても、『鬼は〜外、鬼は〜外』って、きらわれてばかりでのう。それなのに、おまえの家では、『鬼は〜内』って、よんでくれたでな」
 おじいさんは、ふるえながら、やっとのことでいいました。
「す、すると、おめえさんたちは節分の鬼?」
「んだ、んだ。こんなうれしいことはねえ。まんずあたらしてけろ」
と、ズカズカと家に入りこんできました。
「ま、待ってろや。いま、たきぎを持ってくるだに」
 この家に客がきたなんて、何年ぶりのことでしょう。
 たとえ赤鬼と青鬼でも、おじいさんにはうれしい客人でした。
 赤鬼と青鬼とおじいさんが、いろりにあたっていると、またまた人、いえ、鬼がたずねてきました。
「おばんでーす。おばんです」
「『鬼は〜内』ってよばった家は、ここだかの?」
「おーっ、ここだ、ここだ」
「さむさむ。まずは、あたらしてもらうべえ」
 ぞろぞろ、ぞろぞろ、それからもおおぜいの鬼たちが入ってきました。
 なんと、節分の豆に追われた鬼が、みんな、おじいさんの家に集まってきたのです。
「なんにもないけんど、うんとあったまってけろや」
「うん、あったけえ、あったけえ」
 おじいさんは、いろりにまきをドンドンくべました。
 じゅうぶんにあったまった鬼たちは、おじいさんにいいました。
「なにかおれいをしたいが、ほしいものはないか?」
「いやいや、なんもいらねえだ。あんたらによろこんでもらえただけで、おら、うれしいだあ」
「それじゃあ、おらたちの気がすまねえ。どうか、のぞみをいうてくれ」
「そうかい。じゃあ、あったかい、あまざけでもあれば、みんなで飲めるがのう」
「おお、ひきうけたぞ」
「待ってろや」
 鬼たちは、あっというまに出ていってしまいましたが、
「待たせたのう」
 しばらくすると、あまざけやら、ごちそうやら、そのうえお金まで山ほどかかえて、鬼たちが帰ってきました。
 たちまち、大えんかいのはじまりです。
「ほれ、じいさん。いっペえ飲んでくれや」
 おじいさんも、すっかりごきげんです。
 こんな楽しい夜は、おかみさんや息子をなくしていらい、はじめてです。
 鬼たちとおじいさんは、いっしょになって、大声で歌いました。
♪やんれ、ほんれ、今夜はほんに節分か。
♪はずれもんにも福がある。
♪やんれ、やんれさ。
♪はずれもんにも春がくる。
 大えんかいはもりあがって、歌えやおどれやの大さわぎ。
 おじいさんも、鬼の面をつけておどりだしました。
♪やんれ、やれ、今夜は節分。
♪鬼は〜内。
♪こいつは春から、鬼は内〜っ。
 鬼たちは、おじいさんのおかげで、楽しい節分をすごすことができました。
 朝になると鬼たちは、また来年もくるからと、上きげんで帰っていきました。
 おじいさんは、鬼たちがおいていったお金で、おかみさんと息子のはかをりっぱなものになおすと、手をあわせながらいいました。
「おら、もうすこし長生きすることにしただ。来年の節分にも、鬼たちをよばねばならねえでなあ。鬼たちにそうやくそくしただでなあ」
 おじいさんはそういうと、はればれした顔で、家に帰っていきました。

おしまい

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