2月8日の日本の昔話
ウグイス長者(ちょうじゃ→詳細)
むかしむかし、さむい冬空の下を、トボトボと歩いていく、一人の男がおりました。
男の商売は茶売りで、ほかにこまごまとした品物もあきなっています。
この日は、どういうわけか、さっぱり売れません。
さびしい山道を歩いているうちに、男は、いつのまにやら竹やぶの中にいました。
「どうやら、道にまよってしもうたらしい」
うす暗い竹やぶをぬけると、みょうに明るい場所へとでました。
庭には、ちらほらとウメのかおりがただよっています。
男はウメの花に顔を近づけました。
「ほう、よいにおいじゃあ」
すると、とつぜん女のわらい声がしました。
なんと、美しい娘が四人、ウメの木のかげからあらわれたのでした。
男は娘たちのあんないで、娘たちの家へとつれていかれました。
すると、もう一人女の人が出てきて。
「わたしは、娘たちの母親です。どうぞ今夜はゆっくりと、とまっていってくださいませ」
そういって、男の持っている品物を、みんな買ってくれたのです。
つぎの日、母親はあらためて男にいいました。
「ここは、女だけの家ですから、どうぞゆっくりしていってくださいませ。それに、娘が四人おりますから、だれぞのむこになってくださいませ」
なにやら、夢のような話です。
こうして、男は長女のむことなりました。
やがて冬もおわり、あたたかな春がやってきました。
母親が男にいいました。
「きょうは日よりがいいので、娘たちをつれてお花見にいってきます。すみませんがおるす番をおねがいします。たいくつでしたら、うちのくらでも見ていてください。でも、四つめのくらは、けっして開けてはいけませんよ」
女たちの出かけた後、男はなにもすることがなくて、ただボンヤリしていましたが、
「そうじゃ、くらの中でも見てみるか」
男はまず、一番目のくらの戸を開けてみました。
すると、
ザザーッ。
波が男の足もとにおしよせます。
まぶしい青空と、白い入道雲。
そこには、真夏のけしきが広がっていました。
「海か、気持ちいいのう」
それから男は、二番目のくらへうつりました。
そこは、美しい秋の山でした。
赤や黄色に色づいた木々、大きなカキの木と、まっ赤にうれたカキの実。
「モミジにカキとは、風流(ふうりゅう)じゃのう」
男は三番目のくらへいきました。
戸を開けてみれば、そこは一面の雪げしきです。
「うー、寒い、寒い」
男は、寒そうに身をふるわせて、三番目のくらを出てきました。
そして、とうとう四番目のくらへとやってきたのです。
戸を開けようとした男は、母親が出がけにいったことばを、ハッと思い出しました。
「四つめのくらは、開けてはいけませんよ」
開けてはいけないといわれると、よけいに見たくなります。
「なにか、とくべつなものでもあるのかな? ・・・ちょっとだけ」
男はがまんしきれず、四番目のくらの戸を開けました。
「ほう、これは見事だ」
そこは、のどかな春のけしきでした。
サラサラと流れる小川のほとりに花がさき、ウメの木には、ウグイスが飛びかっています。
「ホーホケキョ、ホーホケキョ」
ウグイスが、美しい声で鳴きました。
「ウグイスじゃあ、きれいじゃなあ」
でも、ウグイスたちは男のすがたを見ると、ピタッと鳴くのをやめて、どこかへとんでいってしまいました。
男がおどろいていると、まわりのけしきがスーっと消え、美しい庭は、いつのまにか草やぶにかわり、男はそのまん中で、ポツンと立っていたのです。
そこへ、どこからともなく、母親の声がきこえてきました。
「あなたは、やくそくをやぶって、四番目のくらを開けましたね。わたしたちは、ここにすむウグイスです。きょうは日よりがいいので、みんな、もとのすがたにもどって遊んでいたのです。そのすがたを見られたからには、もう、いっしょにくらすことはできません」
男はしかたなく、トボトボと一人で山をおりていきました。
おしまい
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