3月8日の日本の昔話
エビの腰はなぜまがったか
むかしは、だれもが一生に一度は、お伊勢(いせ)まいりをしたいと考えていました。
ある日、この世で自分がいちばん大きいと思っているヘビが、お伊勢まいりにいくことになりました。
大きな体をズリズリひきずりながら、ヘビは太陽がギラギラとてりつける道をはっていきます。
「なんて暑いんじゃ、かなわんのう」
と、そこへ、なんともすずしげな日かげが、目の前にひろがりました。
「へっへっへ、こりゃありがたい。まるで生きかえったようじゃあ」
日かげで休んで元気になったヘビは、またズリズリとすすみます。
するととつぜん、ものすごい風がふいたかと思うと、ヘビはふっとばされてしまいました。
なんとそれは、大きな大きなワシの羽ばたきだったのです。
あのすずしい日かげは、ワシのかげでした。
あまりのことに、ヘビがぼうぜんとしていると、ワシがいいました。
「ははは、おどかしてわるかったのう。なにせ、わしくらい大きいものは、この世におらんけん。わしが一度羽ばたけば、下はあらしになるほどじゃよ」
「・・・・・・」
「そんなにおどろかんでもええ。べつにとって食ったりはせんから。・・・さて。これから、お伊勢まいりにいくとするか。そこのちっこいの、なにかにつかまっていたほうがええぞ、とばされるでな」
ワシが大きく羽ばたくと、すごい風がまきおこりました。
そして三度ほど羽ばたくと、そこはもう、海の上でした。
それでも、お伊勢さまにはなかなかつきません。
日のくれるころには、さすがのワシもつかれてきました。
すると、なにやら棒のようなものが、海からつきでています。
ワシは、これに止まって休むことにしました。
「これは楽じゃ」
こうして、一晩ゆっくり羽をやすめたワシは、つぎの朝、またお伊勢さまめざしてとびたちました。
それから一日じゅうとびつづけましたが、まだお伊勢さまにはつきません。
「ふう、お伊勢さまとは、えらい遠いところじゃ。そろそろ休みたいが、どこかによい場所は・・・。おおっ、あったあった」
ゆうべ休んだのとおなじような棒が、また、海の中からつきでていました。
ワシは、やっとの思いで、この棒にしがみつきましたが、
「こりゃあ! だれじゃい、わしのひげの上にのっかっとるのは? くすぐったくてたまらんよ、はよ、おりんか」
と、いう声とともに、棒が波をわって、ドドドーーッと持ちあがりました。
「ヒェーー!」
上に持ちあげられたワシは、下を見てビックリ。
ワシがのっかっていたのは、大きい大きい伊勢(いせ)エビのひげの先だったのです。
つまり、ワシは伊勢エビの片方のひげからもう片方のひげへと、一日かかってとんだだけだったのでした。
「ウヒャーー! 海には、こんな大きいやつがいたんかあ」
「これ、いつまでひげの上にのっかっとるんじゃ。くすぐったくてたまらん」
と、エビがうるさそうにひげをふりまわすと、その勢いで、ワシは遠くへふっとんでしまいました。
こんどは、伊勢エビがお伊勢まいりに出かけました。
ところがそんな伊勢エビでも、なかなかお伊勢さまにはつきません。
やがて夕方になり、つかれた伊勢エビは、大きな山のまん中に、体を休めるのにちょうどいい穴を見つけて、その中にもぐりこみました。
つかれていた伊勢エビは、すぐにねむってしまいました。
「ああー、よくねた。さて、そろそろ出発しようか」
と、穴から出ようとしたとき、穴から水がふきだして、伊勢エビは空高くふきとばされてしまいました。
なんと、伊勢エビが休んでいた穴は、大きな大きなクジラのしおふきの穴だったのです。
そして、クジラにふきとばされた伊勢エビは、はるかかなたまでとんでいって、岩の上に落ちたのですが、そのときにひどくこしをうってしまい、こしがまがってしまいました。
それからだそうです。
エビのこしがまがったのは。
おしまい
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