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4月11日の日本の昔話

家が栄える、おまじない

家が栄える、おまじない
吉四六(きっちょむ)さん → 吉四六さんについて

 むかしむかし、きっちょむさんと言う、とんちの上手な人がいました。

 きっちょむさんの村には、先祖代々田畑や山をたくさん持っている金助(きんすけ)さんという大百姓がいました。
 しかしどうしたわけか金助さんの代になってから少しずつ財産が減っていき、もうどうにもならない状態でした。
「あれほど栄えていた家が、こうもすたれるとは。これはきっと、福の神が家を出て行ったからに違いない」
 金助さんが、こう考えたのも無理はありません。
 なぜなら金助さんはとても良い人で、これまでに悪い事もお金をむだに使った事もないからです。
 それなのに金助さんの田畑だけに虫がついてお米が出来なかったり、大事な牛や馬が病気になって死んだりと、次から次へと悪い事が重なって行くのです。
 有名な易者(えきしゃ)に占ってもらっても原因がわからず、神主さんにお払いをしてもらっても効き目がありませんでした。

 そんなある日、金助さんはふと思いました。
「そうだ、あのきっちょむさんだったら、何か良いまじないを知っているかもしれんぞ」
 金助さんから相談を受けたきっちょむさんは、しばらく首をひねって考えていましたが、やがて何かを思いついたのか、ひざをぽんとたたいて言いました。
「よし。ほかならぬ金助さんの頼みだから、とっておきのまじないをお教えしましょう」
「それは、ありがたい。して、それはどんなまじないだね?」
「まあ、待ってください。
 ここでは説明出来ない事だから、明日の朝早く八幡(はちまん→八幡神を祭神とする神社の総称)さまの鳥居の下に来て下さい。
 そこで、とっておきのまじないをお教えしますから。
 でもその代わり、ほかの村人が起きる前に起きて、自分の家のまわりとよその家のまわりを回ってくるのですよ。
 そうしないと、とっておきのまじないも効き目がありませんからね」
「いいとも、いいとも」

 さて次の朝、金助さんは約束通り、まだ薄暗いうちに起き出しました。
 金助さんは生まれた時からのお坊ちゃんなので、こんなに早起きをしたのは生まれて初めてです。
「ああ、早起きの朝と言うのは気持ちが良い物だな。今日はきっと、村一番の早起きに違いないぞ」
 金助さんは家の者を起こさないように着替えると、きっちょむさんの言葉通りに家のまわりを一回りしました。
 すると納屋の前に、昨日の仕事を終えた使用人が、すきやかまなどの道具をてきとうに置いていたのを見つけました。
(なんだ、これは? うちの使用人は、いつもこんなにだらしないのか?)
 金助さんは少し嫌な顔をしましたが、きっちょむさんとの約束通り、ほかの家々をまわりながら八幡さまの方へと向かいました。
 すると驚いた事に、今日は村一番の早起きだと思っていたのは間違いでした。
 他の家ではもう仕事を始めていて、まだ寝ている家は金助さんの家だけです。
(これは・・・)
 金助さんが八幡さまへ着いてみると、野良着を着たきっちょむさんがもう先に来ていました。
「きっちょむさん」
 金助さんが声をかけると、きっちょむさんがふり返りました。
「やあ、金助さん。今日は、早く起きましたね。では約束通り、家が栄えるまじないをお教えしましょう」
 すると金助さんは、手をふって答えました。
「きっちょむさん。
 これ以上、わしにはじをかかさないでくれ。
 早起きしたおかげで、家がおとろえたわけがわかったよ。
 さっそく家に帰って、家の者たちと働かないとな」
「それは結構。がんばれば、すぐに元の暮らしが取り戻せますよ」

 それから金助さんは、毎日誰よりも早く起きて家の者たちと一緒に仕事をしました。
 そのおかげできっちょむさんの言葉通り、金助さんの家は以前の豊かさを取り戻したのです。

おしまい

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