5月7日の日本の昔話
つばきの花
黒いつばきの花
吉四六(きっちょむ)さん
むかしむかし、吉四六さんと言う、とてもゆかいな人がいました。
さて、国のお殿さまが吉四六さんのうわさを聞いて、家来たちに言いました。
「いくらとんちの名人でも、わしをだます事は出来まい。さっそく、連れてまいれ」
そこで家来が、吉四六さんを連れて来ました。
吉四六さんが殿さまの前に行くと、殿さまは後ろにある刀を指差して言いました。
「お前はとんちの名人だそうだが、わしをうまくだませたらこの刀をやろう。だが失敗したら、お前の首をもらうぞ」
それを聞いて、吉四六さんはびっくりです。
「と、とんでもない。殿さまをだますなんて。どうか、お許し下さい」
吉四六さんは泣きそうな声であやまりましたが、でも殿さまは承知しません。
そこで吉四六さんは、殿さまに言いました。
「わたしには、殿さまをだます事は出来ません。いさぎよく首を切られましょう。だけど首を切られる前に、一つだけお願いがあります」
「わかった。言ってみろ」
「実は今朝、わたしの家の庭にまっ黒なつばきの花が咲きました。わたしがこんな事になったのも、縁起の悪い花が咲いたからです。せめてこの花を叩き切ってから、首を切られたいと思います」
「何? まっ黒なつばきの花だと。そんな花が、咲くはずがない。わしをだまそうたって、そうはいかないぞ」
「いいえ、本当です。うそだとおっしゃるなら、取ってきましょうか?」
「よし、すぐに取って来い」
そこで吉四六さんは、急いで家に帰って行きました。
でも黒いつばきの花なんか、どこにも咲いていません。
吉四六さんは、そのまま殿さまのところへ戻って、
「すみません。とても硬い木で、のこぎりやオノでは切れません。どうか、その刀を貸して下さい」
と、言いました。
すると殿さまは、イライラして、
「よし、貸してやろう。その代わりにすぐ切り取って来ないと、首をはねるぞ!」
さて、刀を貸してもらった吉四六さんは大喜びで帰って行き、それっきり殿さまの所へは戻ってはきませんでした。
次の日、殿さまが怒って家来を吉四六さんの家に行かせると、吉四六さんはすました顔で言いました。
「黒いつばきの花なんて、咲くわけないでしょう。約束通り、お殿さまをだまして刀を頂きましたよ」
それを聞いた殿さまは、
「しまった。見事にやられたわ」
と、
怒るにも怒れず、とてもくやしがったそうです。
おしまい
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