9月2日の日本の昔話
歯をボロボロにされた鬼
むかしむかし、ある山奥に、一匹の鬼が住んでいました。
鬼は、毎日のようにふもとの村にやってきて、畑をあらしまわり、家にある食べ物を手あたりしだいに食べるのです。
「そのうちに、わしらも殺されてしまうかもしれない」
「なんとかしないと、村はぜんめつだ」
村の人たちは、すっかり困ってしまい、畑仕事も手につきません。
そこで、寺の和尚(おしょう→詳細)さんに相談して、鬼が来ると寺へつれていき、酒を飲ませて、ごちそうを食べさせることにしたのです。
おかげで畑はあらされなくなりましたが、今度はごちそうづくりがたいへんです。
村人たちが交代でごちそうをつくり、酒を用意しなくていけないのです。
鬼は毎日寺へやってきて、大酒を飲み、腹いっぱいごちそうを食べたあと、本堂で大の字にねて、ものすごいいびきをかきます。
それを見ていると、なさけないやらくやしいやら、いっそひと思いに殺そうとしましたが、
「まて、まて。いくら鬼とて、いのちあるものを殺すわけにはいかない。わしにまかせておけ」
と、和尚さんがいうので、村人たちは、なんとかがまんしていました。
ある日のこと、和尚さんが、
「白い石を四角に切ったものと、竹の根を輪切りにしたものを用意するように」
と、いいました。
鬼は、いつものように地ひびきをたてながら、寺にやってきました。
「さあ、どうぞどうぞ」
和尚さんは、鬼を本堂にあんないすると、大きなおぜんの前にすわらせて、
「今日は酒のさかなに、とうふと竹の子を用意しました」
と、いって白い四角の石と、竹の根を輪切りにしたものを出しました。
それから、自分のおぜんの上には、本物のとうふと竹の子のにものをおいたのです。
鬼は、いつものように酒を飲み、とうふといわれた白い石をほおばりました。
ガシン!
ところが、その石のかたいこと。
ひっしになってかみくだいたら、鬼の歯がボロボロになってしまいました。
「なんてかたいとうふじゃ。・・・うん?」
ふと、和尚さんの方を見てみると、さもおいしそうに、とうふを食べています。
和尚さんは続いて、竹の子の煮物を口に入れると、これまたおいしそうに食べました。
鬼も、おなじように竹の根の輪切りを口に入れましたが、かたくてかたくて、やっぱり歯がたちません。
それでも人間に負けてなるものかと、思いきってかみくだいたので、残っている歯もボロボロになってしまいました。
さすがの鬼もビックリして、和尚さんにいいました。
「こんなかたいものを、よく平気で食べられるもんだ」
すると、和尚さんはへいきな顔でいいました。
「なあに、人間の歯は鉄よりかたく、なんだってかみくだくことができる。なんなら、おまえさんの腕にかみついてみようか?」
「と、とんでもない!」
鬼は、あわてて手をふりました。
「そればかりじゃない。地面だってひっくり返すことができるぞ。あれを見てみろ」
和尚さんが麦畑(むぎばたけ)の方を指さしました。
すると、きのうまで黄色く実っていた麦は一本もなく、畑はすっかりたがやされて、黒ぐろとした土になっていました。
(なるほど、人間というのは、恐ろしい力を持っているものだ。そうとは知らずに畑をあらしたり、ごちそうを食ったりしていたが、もしかして、わしを安心させて、つかまえるためかもしれないぞ)
そう思うと、鬼はきゅうにこわくなり、そのまま山奥に逃げこむと、二度と姿を見せることはなかったということです。
おしまい
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