9月4日の日本の昔話
木仏長者(ちょうじゃ→詳細)
むかしむかし、貧乏な男が、長者といわれる大金持ちの家で働いていました。
長者の家には、りっぱな金の仏さまがあります。
男はたいへん信心(しんじん→神仏を信仰する気持ち)深くて、
「なんてりっぱな仏さまだろう。自分もあんな仏さまを持っておがみたいものだな」
と、思っていました。
ある日、男は山へ仕事に行って、仏さまそっくりの木の切れはしを見つけると、ひろって持って帰りました。
そして、自分のへやにお祭りしたのです。
毎日毎日、自分のおぜんをお供えして、おがんでいます。
でも、ほかのみんなはバカにして、男をいじめました。
男はたいへんよく働くので、このままいじめられて、よそにいかれては大変と、長者はこんなことを考えていいました。
「おまえさん。おまえさんのおがんでいる木の仏さまと、わしの持っている金の仏さまとを、一度、すもうをとらせてみようではないか。木の仏さまが負けたなら、おまえは一生、わしのところで働くんだよ。そのかわり、もしわしの金の仏さまが負けたなら、わしの持っている財産は、みんなおまえにやるよ」
男はビックリです。
木の仏さまの前へすわって、手を合わせていいました。
「大変なことになりました。あなたさまと金の仏さまとが、おすもうをおとりになるのです。どうしましょう?」
わけを話しますと、木の仏さまはいいました。
「心配するな。強い相手だが、わしは勝負をしてみるよ」
いよいよ、すもうをとる日です。
大きなへやで、金の仏さまと木の仏さまは、向かいあって立ちました。
長者が、どうしてすもうをとらせるのか、二つの仏さまにその訳をいってから、
「さあ、始め! はっけよい、このった!」
うちわをあげて、声をかけました。
すると、二つの仏さまは、グラグラと動き出し、近寄って組みあいました。
押したり押されたり、なかなか勝負がつきません。
長者も使用人のその男も、ハラハラしながら応援(おうえん)しました。
「金の仏さま負けるな!」
「木の仏さま負けるな!」
最初、金の仏さまがゆうせいでしたが、そのうちに、金の仏さまのからだじゅうが、汗でびっしょりになってきたのです。
汗だけでなく、足もフラフラです。
これは大変と、長者は大きな声で叫びました。
「金の仏さまが、そんな木ぎれの仏さまに負けてどうするのです。がんばってください。がんばってください!」
けれど、金の仏さまは、とうとう倒れて負けてしまいました。
疲れ果てて、起きあがる力もありません。
その間に、木の仏さまは、今まで金の仏さまが祭られていた仏だんの上へあがってすわりました。
「ありがたい、ありがたい」
みんなが、その木の仏さまをおがみました。
負けた長者は、約束どおりに金の仏さまを抱いて、家を出ていきました。
長者の家は、もう、使用人の男が主人です。
金の仏さまを抱いた長者は、野原をトボトボと歩いていきました。
そして、金の仏さまにいいました。
「おまえさんは、どうしてあんな木切れの仏さまなんかに負けたのだね」
すると、金の仏さまは答えました。
「相手は木の仏ですが、毎日毎日、おぜんを供えてもらって信心されていました。それなのに、わたしは一年に、ほんの二度か三度、お祭りのときに供えてくれただけではありませんか。それに信心もしてくれない。力が出ないのは、あたりまえではないか」
金の仏さまは、悲しそうに泣きました。
「・・・・・・」
長者も、返す言葉がありませんでした。
おしまい
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