10月31日の日本の昔話
まつりに参加したキツネ
むかしむかし、ある村に、人を化かして、いたずらをするキツネがいました。
村人たちの中には、ドロのだんごを食べさせられたという人や、お風呂だといわれて、こやしのおけに入れられた人など、いろいろないたずらをされる人がふえてきました。
そこで、村人たちは、
「なんとかしてキツネをこらしめ、いたずらをやめさせなければいけない」
と、いいだしました。
それには、おこんギツネという、キツネの親分をつかまえなくてはいけないのですが、そのキツネはかしこくて、なかなか捕まりません。
すると、ある若者が、
「今度の盆踊りで、化け比べをすれば、化けるのが好きなおこんギツネは、きっと出てくるよ」
と、いいました。
おこんギツネをおびき出すために、今年の盆踊りでは、特別に工夫をこらして、いろいろな姿に化けて踊って、一番うまく化けた者にはほうびをやろうというのでした。
「ほう、それはおもしろい」
と、みんなは賛成しました。
そこで踊りに出る人たちは、こっそりいろんな用意をしました。
そして、いよいよ盆踊りの夜、村人たちは、森のおみやの前の広場に集まりました。
たいこがなりひびき、歌声が流れていきます。
♪よいやさ、よいやさ。
♪よいやさ、よいやさ。
みんなは輪になって、グルグルと踊りまわっています。
カゴを背負った、花売り娘。
槍をかついだ、やっこさん。
美しい、お姫さま。
ひょっとこのお面の男。
ひげを生やしたお侍。
お坊さん、赤鬼、金太郎など。
いろいろな姿に変装した踊り手たちがいます。
その向こうには、ごほうびにもらう、お酒の樽や、焼き鳥のごちそうなどが、たくさん並べてあります。
踊りまわるうちに、お姫さまとひょっとこがぶつかったり、お侍が転んだひょうしに、立派な口ひげを落としたりして、見物している人たちは、ドッと笑い転げています。
するといつのまにか、踊りの輪の中に、立派な若いお侍の姿をした踊り手がまじっていました。
「ほう、見事な若侍じゃな」
「うん、大した若侍じゃ」
と、みんながほめます。
それに、踊る手ぶりや、体の動かし方が、なかなか見事です。
やがて、夜もふけたころ、たいこの音もやみ、踊り手たちの輪もとけて、盆踊りが終わりました。
みんなは、まわりのむしろの上に座って、ホッと汗をふいています。
「さあ、だれが一番うまく化けて、うまく踊ったかな」
見物していた人たちが、一番よいと思った人を決めることになりました。
やっこさん、お姫さま、ひょっとこも、人気がありましたが、一番になったのは、あの若侍の踊りでした。
「ほんとに、見事じゃったのう」
ごほうびのお酒を入れた樽が、若侍の前に並べられました。
もちろん、食べきれないほどのごちそうも、出されました。
「そら、お祝いじゃ。飲め、飲め、いくらでも飲め」
たくさんの酒をすすめられた若侍は、たちまち酔っぱらってしまいました。
そして、ゴロンと横になりました。
すると、体の後ろの方から、長いしっぽがポックリと出てきました。
「ほれ、あれあれ、あのしっぽは、キツネだぞ」
「やっぱり、キツネのおこんじゃ」
そこでみんなは、しめたとばかりに、キツネのおこんを捕まえて、なわでしばってしまいました。
「さあ、おこん。もう逃げられないぞ、覚悟しろ!」
「いたずらものの尻尾を、切ってやる!」
おこんギツネは、すっかりキツネの姿に戻って、
「尻尾ばかりはごかんべんを。尻尾はキツネの宝物です。どうか許してください。コーン、コーン」
と、頭を下げました。
「では、もういたずらはしないか?」
「はいはい、もう、二度といたしません。コーン、コーン」
おこんギツネは、一生懸命にあやまりました。
そこでみんなは、尻尾を切るのをやめて、なわをといてやりました。
喜んだおこんギツネは、何度もお礼をいって、頭と尻尾をフリフリ、森の奥へ逃げていきました。
コーン、コーン
おしまい
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