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10月31日の世界の昔話

しあわせの王子

しあわせの王子
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 むかしむかし、ある町には、美しい「しあわせの王子」の像(ぞう)がありました。
 ピカピカと、金色にかがやく体。
 青いサファイアのひとみ。
 腰の剣には、大きいルビーがついています。
 町の人たちは、このすばらしい王子のように、しあわせになりたいと願いました。
 冬が近づいてきた、ある寒いタ方のことです。
 町に、ツバメが一羽飛んできました。
「ずいぶんと遅れちゃったな。みんなはもう、エジプトに着いたのかなあ。ぼくもあした、旅に出よう」
 ツバメは王子の足元にとまり、そこで眠ろうとしました。
 すると、ポツポツと、しずくが落ちてきます。
「あれれ、雨かな? くももないのに・・・。あっ、王子さまが泣いている。もしもし、どうしたのですか?」
 おどろいたツバメがたずねると、王子は答えました。
「こうして高い所にいると、町じゅうの悲しいできごとが、目に入ってくる。でもぼくには、どうすることもできない。だから泣いているんだよ。ほら、あそこに小さな家があるだろう。子どもが病気で、オレンジがほしいと泣いている。お母さんは一生けんめい働いているのに、貧しくて買えないんだ」
「それはお気のどくに」
「お願いだ、ツバメくん。ぼくの剣のルビーをあそこへ運んでおくれ」
「・・・うん。わかった」
 ツバメはしぶしぶ、王子の腰の剣のルビーをはずして、運んでいきました。
 そして、熱で苦しんでいる男の子のまくらもとにルビーを置くと、
「がんばってね」
 男の子をツバサで、そっとあおいで帰ってきました。
「ふしぎだな。王子さま、寒いのに、なんだかからだがポカポカする」
「それは、きみがいいことをしたからさ、ツバメくん」
 つぎの日、王子はまた、ツバメにたのみました。
「ぼくの目のサファイアを一つ、才能のある貧しい若者に運んでやってくれないか」
「でもぼく、そろそろ出発しなくちゃ」
「お願いだ。きょう一日だけだよ、ツバメくん」
「・・・うん」
 ツバメの運んできたサファイアを見た若者は、目をかがやかせました。
「これでパンが買える。作品も書きあげられるぞ」
 つぎの日、ツバメは、きょうこそ旅に出る決心をしました。
 そして王子に、お別れをいいにいきました。
「王子さま、これからぼくは、仲間のいるエジプトにいきます。エジプトはとてもあたたかくて、お日さまがいっぱいなんです」
 けれど、王子はたのむのでした。
「もう一晩だけいておくれ。あそこでマッチ売りの女の子が泣いている。お金をかせがないとお父さんにぶたれるのに、マッチを全部落としてしまったんだ。だから、残ったサファイアをあげてほしい」
「それでは、王子さまの目が、見えなくなってしまいますよ」
「いいんだ。あの子がしあわせになれるのなら」
 人のしあわせのために、自分の目をなくした王子を見て、ツバメは決心しました。
「王子さま、ぼくはもう、旅に出ません。ずっとおそばにいます。王子さまの目のかわりをします」
「ありがとう」
 ツバメは町じゅうを飛び回り、貧しい人たちの暮らしを見ては、それを王子に話して聞かせました。
「ぼくのからだについている金を、全部はがして、貧しい人たちに分けてあげてほしいんだ」
 ツバメは、王子のいいつけどおりにしました。
 空から雪がまい落ちてきました。
 とうとう、冬がきたのです。
 さむさによわいツバメは、こごえて動けなくなりました。
「ぼくは、もうだめです。さようなら、王子さま。いいことをして、ぼくは、しあわせでした」
 ツバメは王子にキスをすると、力つきて死にました。
 パチン!
 王子の心臓(しんぞう)は、寒さと悲しみのたえかねて、はじけてしまいました。
 つぎの朝、町の人たちは、しあわせの王子の像がすっかりきたなくなっているのに気づきました。
「美しくない王子なんか、必要ない。とかしてしまおう」
 ところがふしぎなことに、王子の心臓は、どんなにしてもとけません。
 しかたがないので心臓だけは、そばで死んでいたツバメといっしょにすてられました。
 そのころ、神さまと天使(てんし)が、この町へやってきました。
「町でいちばん美しいものを、持っておいで」
 神さまにいいつけられて、天使が運んだのは、王子の心臓とツバメでした。
 神さまはうなずきました。
「よくやった。これこそが、この町で一番美しいものだ。王子とツバメはたいへん良いことをした。この二人を天国にすまわせよう。きっと、しあわせに暮らすことだろう」

おしまい

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