きょうの百物語
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4月24日の百物語

首なしウマの行列

首なし馬の行列
福井県の民話

 むかし、越前の国(えちぜんのくに→福井県)の城下町(じょうかまち→城を中心に発展した町)では、毎年四月二十四日の夜は外に出てはいけないと言い伝えられていました。
 なぜなら、この日の夜の亥の刻(いのこく→午後十時ごろ)近くになると、豊臣秀吉に滅ぼされた柴田勝家(しばたかついえ)の家臣(かしん)たちの亡霊(ぼうれい)が現れるからだそうです。
 亡霊たちは全員がよろいかぶとをまとった武者で、馬に乗っています。
 その馬も武者もまっ白で、なぜか馬には首がありません。
 首のない馬に乗った白い軍団は夜通し城下町をねり歩き、夜明けとともに消えて行くのですが、この行列に出会った者は、その事を人に話すと血を吐いて死んでしまうと言われています。

  ある年の事、一人の老婆が若い頃に仕えていた水野(みずの)という(さむらい)の屋敷をたずねました。
「夕食を用意しているから、今夜は泊まって行くといい」
 家の人に言われて老婆もその気になりましたが、夜になると急に用事を思い出して、家に帰ると言い出したのです。
 城主だった柴田勝家が豊臣秀吉に滅ぼされたのは、もう百年以上も前です。
 水野の家の人も老婆も、今日が四月二十四日だという事を少しも気にしていませんでした。

 屋敷を出た老婆は、最近完成したばかりの新橋のたもとまでやってきました。
 すると向こうから道一杯に列を作った、首なし馬の行列がやってきたのです。
(しまった! 今日はあれの出る四月の二十四日だった)
 老婆はあわててちょうちんの明りを消すと、後ろを向いて目をつぶりました。
 そして行列が通り過ぎて行くのを、じっと待ちました。
 やがて老婆の背後を、亡霊たちの行列がゆっくりと通り過ぎていきます。
「なんまんだぶ。なんまんだぶ。なんまんだぶ」
 老婆は口の中で、お経を唱え続けました。
 やがて行列が行ってしまうと老婆は後ろを振り向かずに、走る様に新橋を渡って家に帰りました。

 次の朝、いつもより遅く起きた老婆が居間(いま)へ行くと、孫娘が言いました。
「おばあちゃん、お顔が青いよ。どうしたの?」
 孫娘の言葉に家の人たちも老婆の顔色に気づき、口をそろえてどこか悪いのかとたずねました。
 そこで老婆は、昨日出会った亡霊たちの事を話し出しました。
「昨日は、四月二十四日だっただろう。わたしは昨日、新橋のたもとで首なしの馬に乗った亡霊を」
 その時、老婆の息子があわてて老婆の口を手でふさぎました。
「言っては駄目だ! 亡霊を見た事を話すとどうなるか、母さんも知っているだろう!」
 それを聞いて老婆もしまったと思いましたが、でも息子に笑って言いました。
「なに、そんなのは迷信(めいしん)じゃ。もう百年以上も前の事だし、今さらたたりなどあるものか」

 それから何事もなく一年が過ぎ、次の年の四月二十四日になりました。
 老婆は風邪一つひかず、たたりらしい事は何もありません。
(やっぱり、あれはただの迷信じゃ。あの時の行列も、何かの見間違いだろう)
 老婆は暗くなる前には帰ると言って、散歩に出かけました。
 そして夜になっても、老婆は家に帰ってきませんでした。

 次の朝、心配した家の人が近所の人たちと手分けをして老婆を探したところ、老婆は新橋の橋の下で両足を空に向けたかっこうで、川底のドロの中に首を突っ込んで死んでいたという事です。

おしまい

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