きょうの百物語
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12月3日の百物語

番町皿屋敷

番町皿屋敷
東京都の民話

 むかし、江戸の番町のあるお屋敷に、おきくという、とても美しい腰元(こしもと)がいました。
 腰元とは、殿さまの身の回りのお世話をする女の人です。
 お屋敷には何人もの腰元がいましたが、殿さまの青山播磨(あおやまはりま)は、おきくが大のお気に入りです。
 いつも、
「おきく、おきく」
と、おきくを可愛がっていました。
 他の腰元たちは、おもしろくありません。
「ふん、何よ。おきく、おきくって」
「おきくも、おきくよ。ちょっと美人だからって、いい気になっちゃってさ」
「ねえ、おきくを、ちょっと困らせてやろうよ」
「いいわね。で、どうする?」
 腰元たちは、悪い相談を始めました。
 それは、殿さまが大事にしている十枚一組の絵皿の一枚を隠して、おきくのせいにしてやろうというものです。
 この絵皿は先祖から伝わる家宝で、一枚がかけても価値がなくなってしまいます。

 ある日、青山が久しぶりに十枚の絵皿をながめようとしたのですが、絵皿が九枚しかありません。
「これは一体?!」
 そこで青山は、さっそく腰元たちを呼びつけました。
 すると腰元たちは口をそろえて、
「その絵皿なら、おきくが割りました」
「おきくが割って、どこかへ捨ててしまいました」
「犯人は、おきくに間違いありません」
と、青山に嘘を言ったのです。
 これを聞いて青山は、おきくを厳しく叱りました。
「おきく! 絵皿を割った事を、なぜ言わなかったのだ」
「絵皿? わたくしには、何の事やら」
「嘘を言うな! 自分が割ったと正直に言えば、許してやる」
「いいえ。わたくしには、全く身に覚えがございません。何かのお間違えです」
「えーい! 寛大に許してやると言っておるのに、まだ言い逃れをするつもりか!」
「でもわたくしは、何も知りません」
「まだ言うか! 顔も見とうない! 出て行け!」
 かわいそうに、おきくはその晩、屋敷の井戸(いど)に身を投げて死んでしまいました。

 さて、それから真夜中になると、屋敷の井戸の中から、
「一ま〜い、二ま〜い、三ま〜い、四ま〜い、五ま〜い、六ま〜い、七ま〜い、八ま〜い、九ま〜い、・・・ああ、うらめしやぁ〜」
と、あわれきわまりない声で、絵皿を数える声が聞こえるのです。
 そして、お屋敷には不幸な事が続いて、青山も腰元たちも次々と死んでしまいました。

おしまい

 ※岡本綺堂作の戯曲(1916年(大正5)初演)では、お菊が恋仲の青山播磨の気持ちを試そうと、自分で家宝の皿を割った事になっています。

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