9月16日の小話
江戸見物
あるいなかの庄屋(しょうや→村長)さんが、江戸見物に出かけました。
江戸は初めての町です。
きくところによれば、江戸はぶっそうな所で、道を歩くにも、少しのゆだんもできぬといいます。
そこで庄屋さん、おともの男の吾平(ごへい)に風呂敷包み(ふろしきづつみ→本来は、着替えなど、風呂の用意をつつんだ布)をしっかり持たせて出かけたそうな。
さて、江戸の町です。
「これ、吾平、お江戸はあぶない所というから、包みを盗られぬよう気をつけろよ」
「はい、だんなさま」
「ほほう、どっちを向いても別ぴんな女ごばかりじゃ、吾平、包みは大丈夫か?」
「はい、これ、この通り」
「よしよし、なるほどきいた通り、お江戸は大した町じゃ。ところで吾平、包みは持っとるな、どうも気にかかってならんわい」
「もっています」
「よしよし、こんなに人間のおおい所では、気をつけにゃならんわい。それにしても気にかかるのう、これ吾平、包みはまだあるじゃろうな」
「そ、それがだんなさま、申し訳ござりませぬ、いまのいま、盗られましてござりまする」
「なに、盗られたとな。そうかそうか、いや、でかしたぞ。これでようやく、おちついて、お江戸見物ができるわい」
おしまい
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