きょうの江戸小話
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10月29日の小話

はやく走る

はやく走る

 ひとりの男が、えらく知ったかぶりをして、いったそうな。
「そもそも、けものの中ではじゃ。爪のわれておるものがはやい。たとえばじゃ。サイというやつ」
「あの、ウシのようで、鼻の頭に角(つの)のあるサイか?」
「さよう。そのサイは、爪がわれておるので、とぶようにはやい」
「なるほど。それなら、ウマはどうした。あいつは、爪がわれてもおらんのに、はやく走るぞ。さあ、どうした。どうした」
「いや、その、あっ、あれはだな、爪がわれておらんからこそ、人間ものれる。もし、ウマの爪がわれておってみろ。それこそたいへん。目にもとまらぬほどはやく走るので、とてもとても、人間がのれたもんではないわ」
「じゃあ、ウシはどうした。爪がわれておるが、あいつは、おそいぞ。これ、どうした、どうした、いうてみい」
「うん、その、それ、それ。それじゃよ。ウシは、爪がわれておるからこそ、歩けるんじゃ。あいつの爪が、われておらにゃ、いやもう、のろくてのろくて、うごくどころでないわ」

おしまい

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