1月6日の日本民話
金樽(きんたる)イワシ
京都府の民話
天の橋立(はしだて)の外側の海を与謝(よさ)の海、そして、内側の海を阿蘇(あそ)の海と呼び、むかしから阿蘇の海で獲れるイワシにかぎっては、金樽(きんたる)イワシと呼ばれています。
これはその、金樽イワシに関するお話です。
むかしむかし、丹後(たんご)の国に、藤原保昌(ふじわらやすまさ)という殿さまがいました。
この殿さまは京都に長い間住んでいた人で、とても風流好みの殿さまでした。
ある夜の事、この風流好みの殿さまが、阿蘇の海に舟を浮かべて酒を飲みながら、月を眺めていました。
「なんと美しい月の眺めじゃ。京で見る月も良いが、この海から見る月は格別じゃ」
殿さまは上機嫌で、だんだんと調子にのって酒樽を叩いたりしています。
♪ポンポコポン
♪ポンポコポン
すると不思議な事に、酒樽を叩くと殿さまの舟の周囲にイワシの大群が押し寄せてきて、殿さまが叩く音に合わせて、イワシが飛びはねるのです。
ところが調子にのりすぎた殿さまは、ふとしたはずみに酒の入った酒樽を海に落としてしまったのです。
すると、今までいたイワシの大群も急に姿を消してしまいました。
さて翌日の事、漁師たちが漁に出ると、何干何万というイワシが捕れたではありませんか。
漁師は大漁に大喜びして、その一部を殿さまに届けました。
そして、そのイワシを一口食べた殿さまは、
「おお、なんとうまいイワシじゃ。このイワシはきっと、酒樽の身代わりに違いない」
と、大喜びしました。
そんなわけで、その後、阿蘇の海で獲れるイワシを金樽イワシと呼ぶようになったのです。
おしまい
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