2月10日の日本民話
雪こぞう
新潟県の民話
むかしむかし、ある山のふもとに、お百姓(ひゃくしょう)さんの家がありました。
とてもにぎやかな家で、おじいさんとおばあさん、お父さんとお母さん、それにたくさんの子どもたちがいました。
ある、大雪のふった晩の事です。
みんなはいろりのまわりに集まって、イノシシ汁が出来るのを待っていました。
おいしそうなみそのにおいが、家中にながれていきます。
「まだかなあ?」
「おなかがすいて、もうがまんできないよ」
子どもたちはワイワイ言いながら、なべをにらんでためいきをつきました。
その時です。
おもての戸がガラリと開いて、つめたい雪がふきこんできました。
みんながビックリしてふりむくと、見なれない顔の七つぐらいの男の子が立っていました。
「お前、どこからきた?」
「・・・・・・」
「何か用か?」
「・・・・・・」
何を聞いても、返事をしません。
ですが、男の子はいろりのそばにやってくると、
「おらにも、ちいとあたらせてくれ」
と、言って火にあたりました。
「いいとも。もうすぐイノシシ汁もにえるから、一緒に食べていけ」
と、おじいさんが言いましたが、男の子はだまったままです。
「お前、家はないのか?」
「・・・・・・」
「これからどこへ行く?」
「・・・・・・」
子どもたちがかわるがわるたずねても、男の子はだまってなべを見つめているだけです。
「さあ、おまちどおさま。あなたも一緒にお食べなさい」
お母さんがみんなのおわんと一緒に、男の子の分のおわんを持ってきてあげました。
お母さんがなべのふたをあけようとしたら、男の子がきゅうに立ちあがりました。
「ありがとう。おらすっかりあたたまったで、帰らしてもらう」
お母さんが、あわてて止めました。
「子どもがえんりょなんか、するんじゃないよ」
すると、男の子は
「おらもう、おなかがいっぱいだ」
そう言ったかと思うと、風のように消えていきました。
「おかしな子どもじゃ、いったい、何しにきたのか?」
みんな、不思議そうに首をふりました。
「一緒に食べていけばよかったのに」
言いながら、お母さんがなべのふたをとると、
「あれえ! ない!」
みんなもいっせいに、なべの中をのぞきこみました。
見てみるとなべの中は空っぽで、何も入っていないおみそしるだけがグツグツとにえています。
「あいつが食べたんだ!」
「何がおなかがいっぱいだ!」
子どもたちは男の子をつかまえようとして、外へとびだしました。
でもどこへ行ったのか、男の子のすがたはなく、雪の上に足あともありませんでした。
「おかしなこともあるものだ」
子どもたちは小首をかしげながら、もどってきました。
「でも、いつのまに食べたのかな?」
「そうだよ。ふたも開けないで」
子どもたちはおなかのすいたのもわすれてなべを見つめていると、おばあさんが言いました。
「もしかして、雪こぞうかもしれないぞ」
「雪こぞうだって?」
「そうだ。むかしから雪のふる晩には雪こぞうが人間のすがたになって、ごちそうを食べにくるんだって。子どもの時、そんな話を聞いたことがある。あの子のすわっていたところを調べてみろ」
おばあさんに言われて、子どもたちが男の子のすわっていたざぶとんに手をやると、ざぶとんは水をこぼしたようにグッショリとぬれていたという事です。
おしまい
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