2月19日の日本民話
トラのあぶら
高知県の民話
むかしむかし、土佐の国(とさのくに→高知県)に是市(これいち)という、とんちの上手な若者が住んでいました。
ある日の事、隣村へ出かけた是市は、突然のにわか雨に降られて、すっかりずぶ濡れになってしまいました。
服がビショビショで、このままでは風邪をひいてしまいます。
「早く着物を乾かさないと、寒くてかなわんわ」
しばらく歩くと一軒の家があり、中をのぞくと、おじいさんがいろりに火をたいていました。
「これはちょうどいい。ちょいと、火に当たらせてもらえないか」
「ああ、いいですよ」
おじいさんが快く是市を家に入れてくれたので、是市はさっそくいろりの火に当たらせてもらったのですが、火が弱いので着物はなかなか乾きません。
(もう少し火を強くしたいが、服を乾かすのに火を強くしてくれと言うのは、ちょいとずうずうしいし)
そこで是市は、おじいさんにこう言いました。、
「なあ、じいさん。おらの村では固い竹を食べるが、このあたりでも食べるのかね?」
「固い竹? タケノコではなく、固い竹が食べられるじゃと!? そりゃあ、初耳(はつみみ→はじめて聞いたこと)じゃ。ぜひとも食べ方を教えてくれ」
すると是市は、
(しめしめ、引っかかったぞ)
と、ニヤリと笑うと、おじいさんに言いました。
「いいか。まずは竹を輪切りにしてナベに入れて、どんどん火をたいて竹をぐらぐらと煮込むんじゃ」
「よし。さっそく試してみよう」
おじいさんは大きな竹を切って来ると、輪切りにしていろりのナベをかけました。
「駄目駄目、もっと火をたかないと。よし、おらも手伝ってやる」
是市はいろりにまきをドンドン放り込んで、火を大きくしました。
そのおかげで着物は、たちまち乾いてしまいました。
外を見ると、雨はすっかり止んでいます。
「まだか。まだ食えんのか?」
おじいさんは早く竹が食べたくて、うずうずしています。
「ああ、もう少しだ。ここでトラのあぶらを入れれば、すぐに食えるぞ。さあ、トラのあぶらを出してくれ」
是市が言うと、おじいさんは不思議そうな顔で言いました。
「トラのあぶら? そんな物はないぞ」
「そうなのか? おらの村じゃあ、どこの家にも置いてあるんだが。困ったなあ。トラのあぶらがないと、竹は食えんからのう。残念、残念」
是市はそう言うと、さっさと帰ってしまいました。
おしまい
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