きょうの日本民話
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6月10日の日本民話

犬石(いぬいし)

犬石(いぬいし)
長野県の民話

 むかしむかし、飯田(いいだ)の立石(たていし)と言うところに、甲賀三郎(こうがさぶろう)と言う男が住んでいました。
 三郎は大の狩り好きで、二匹の猟犬と一緒に毎日の様に山に出かけては、獲物を求めて走り回っていました。

 ある日の事、今日も三郎は二匹の犬を連れて山へ狩りに行ったのですが、その日はなぜかウサギ一匹見つからないのです。
「今日は、どうしたと言うのだ? 動物たちは、みんな山奥に行ってしまったのか?」
 そこで三郎は、今まで行ったことがない山奥へと入っていきました。

 どんどん山奥へ入っていくと、突然三郎の目の前を黒い影が横切りました。
「なんだ? ・・・ああっ!」
 ふり返った三郎は、思わず声を上げました。
 向こうの木のそばに、今まで見た事もないような立派な大ジカが一頭、こっちを向いて立っているのです。
(これは、よい獲物だ)
 三郎はすぐに、矢の狙いを定めました。
 ところがシカは、なぜか三郎をじっと見つめるだけで、逃げようとはしません。
 そのシカの目はまるで人間の目のようで、三郎に何かを伝えているようです。
 さすがの三郎も弓を持つ手が震えましたが、勇気をふるって矢を放ちました。
 すると不思議な事に、今までそこに立っていたシカが、ふっとかき消すようにいなくなったのです。
 そしてそのあとには、手の平に乗るくらいの小さな観音さまが一体、ちょこんと立っていました。
「これは一体、どういう事だ?」
 三郎は訳がわからず、とりあえず二匹の犬を連れて家へ帰ろうとしたのですが、さらに不思議な事に、三郎のそばに居たはずの二匹の犬が、いつの間にか固い石になっているのです。
「・・・そうか。これはきっと観音さまが、殺生はするなといっているに違いない」
 それからというもの三郎はその観音さまを大切にして、二度と殺生をする事はありませんでした。

 現在、立石寺(りっしゃくじ)には『犬石』と呼ばれる石がありますが、これは三郎の犬が石になったものだと伝えられています。

おしまい

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