きょうの日本民話
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6月29日の日本民話

コウノトリの恩がえし

コウノトリの恩がえし
鹿児島県の民話

 むかしむかし、ある村の橋の下に、ほったて小屋をつくってくらしている、母と息子がいました。
 息子は、少しばかりの塩を仕入れて、売り歩いていました。
 ある年の暮れの事です。
 息子が塩を仕入れて町からもどってくると、田んぼで殿さまがしかけたかすみアミにコウノトリがかかって、バタバタとあばれていました。
「なんと。コウノトリじゃないか。年の暮れだというのに、かわいそうに」
 息子は、コウノトリをはなしてやりました。
 そして橋のところまで帰ってきたとき、つい土手(どて)の石につまずいて、塩をばらまいてしまったのです。
 橋の下からそれを見ていた母親は、
「また、けつまずいたのか。ああ、塩がもったいない。あの石はあぶないから足元に気をつけろって、何度もいっておったのに」
と、あきれ顔でいいました。
 これで、今日は仕事にいけません。
 仕事に行けないので食べる物が買えず、母と息子はだまって、お湯ばかりのんでいました。
 ところがしばらくすると、ほったて小屋へ美しい娘がたずねてきたのです。
「あんたみたいな美しい娘さんが、わしら貧乏人(びんぼうにん)に何の用だね?」
 母親がたずねると、娘はまじめな顔で、
「はい。嫁にしてもらおうと思ってきました」
と、いうのです。
「な、なにをいう。うちには食う物も家もない。お前のような娘を嫁にもらえねえ。わるいが帰っておくれ」
と、母親はことわりました。
「お金なら、少しは持っております。お願いですから、嫁にしてください」
 美しい娘は、ふところからお金を出しました。
「・・・しかし」
「お願いです。嫁にしてください」
「・・・だけれど」
「お願いです。嫁にしてください」
「・・・・・・」
 母親はことわれなくなって、娘を息子の嫁さんにすることにしました。
 すると次の日の朝早く、いかめしい(さむらい)たちがやってきました。
 殿さまがとらえようとしたコウノトリを逃がした罪で、十両(じゅうりょう→約七十万円)の罰金(ばっきん)をはらわなければ息子の命はないと、きびしくいわれたのです。
「お前がコウノトリを逃がしたなんて、知らんかった。なんということをしたんじゃ。十両もの大金は、一生かかってもできんぞ。ああ、どうしたらいいんじゃ」
 母親は泣きくずれると、嫁さんは夫にむかっていいました。
「あなたが何度もつまずいて塩をばらまいた石を、どけてみなされ」
 息子はすぐに土手の石のところへ走っていくと、土をほって石をどけてみました。
 すると、大きな石はふたになっていて、その下には大判小判がいっぱいうまっていたのです。
 そのお金で、息子はすぐに罰金をはらいました。
 ところが晴れて息子の命がすくわれると、嫁さんは町へ買いものにいくといったまま、姿を消してしまったのです。
「あの娘は、お前が助けたコウノトリだったんだな。恩をかえしに嫁にきたんだな」
 母と息子は、うなずきあいました。
 こうして大金持ちになったこの親子が、のちに大阪へ出てきて、
「難波(なにわ)の長者(ちょうじゃ)」
と、いわれた大商人、鴻池(こうのいけ)のはじまりになったという事です。

おしまい

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