7月22日の日本民話
カエルの袈裟衣
静岡県の民話
むかし、伊豆にある大きなお寺では、『輪番(りんばん)』といって、三十一年ごとに住職のお坊さんが小田原にあるお寺へいって、おつとめをすることになっていました。
ある日、『輪番』をおえた和尚さんが、小田原から伊豆のお寺へもどっていく途中のことです。
ある屋敷に泊まって床についていると、ふすまのむこうから、おつきの若い坊さんがそっと声をかけてきました。
「ただいま、至急お目にかかりたいという方が見えました。和尚さまは今夜はお疲れで、もうお休みですから、明朝こられるようにと申しあげましたが、お帰りになりません。いかがいたしましょう?」
すると、和尚さんは、
「よいよい。何用かわからぬが、会ってみよう」
と、部屋から出ていきました。
そして玄関口へ行ってみてびっくり。
風呂敷包みをかかえて立っていたのは見あげるような大男で、顔はブツブツのあばたづらで、目玉がピョコンと飛び出し、まるでガマガエルの化け物のようです。
男は、和尚さんに頭をさげました。
「わたしは、ここのとなり村にすむ者ですが、ひそかに和尚さまにお話ししたいことがありまして、こんなごめいわくな時分にやってきました。どうか、お許しください」
見かけによらず、なかなか丁寧な男です。
和尚さんは男を部屋に通して、話をきくことにしました。
部屋に通されると男は頭をさげて、話し出しました。
「なにをかくしましょう、わたしは和尚さまのお寺の池でうまれて、なに不自由なく育てていただいたヒキガエルでございます。それが昨年の大洪水で川へ流され、やっとのことでこの近くの浜辺に泳ぎつきました。いまはとなり村の、ある沼におります。一度これまでお世話になったお礼がしたいと思っておりましたが、なにせ伊豆のお寺までは遠すぎてどうにもなりません。今晩、和尚さまがこちらへお泊まりになるとおききして、こうしておうかがいしたわけです。これは、わたしのほんの志(こころざし)です。お礼のしるしとして、どうぞお納めください」
男はそういって、風呂敷包みの中から麻の袈裟衣(けさごろも)を取り出すと、うやうやしく和尚さんにさしだしました。
和尚さんが手にとって確かめると、今まで見たこと無いほど立派な物です。
「おお、これは素晴らしい」
和尚さんは喜んで、袈裟衣をうけとりました。
ヒキガエルからおくられた袈裟衣を、和尚さんはお寺の宝物として大切にしたという事です。
おしまい
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