8月2日の日本民話
ウマをすくった鵜
栃木県の民話
むかしむかし、ある山のふもとの野原に、野生のウマがたくさんいました。
ある時、むれの中の一頭のメスウマが、がけの上から谷底へ落ちて動けなくなってしまいました。
足の骨をおっているので、まったく立ちあがれず、ウマを見つけた里の人たちは心配しました。
このあたりにはクマやオオカミがでるのですが、谷は深いので重いウマを運ぶことができません。
そこで里の人たちはウマがおそわれないようにと、まわりに深い堀(ほり)をつくって、毎日エサの草を運んでウマが元気になるのを待っていました。
ある日の事です。
空がまっ黒になるほどの鵜(う)の大群(たいぐん)が、飛んできたのです。
むれの大将の鵜は、谷底にたおれているウマを見つけるとおりてきて、ウマのからだの上にとまりました。
そして鵜の大将は、するどいくちばしで弱っているウマのからだをつつきはじめたのです。
ウマはビックリして立ちあがろうとするのですが、からだが思うように動きません。
やがて何羽もの仲間もやってきて、ウマのからだのあちこちを同じようにつつきはじめました。
ウマは首を持ち上げる事も出来ず、ただ、鵜たちのなすがままになっていました。
でもところが、鵜はウマをおそっていたのではなく、ウマのからだについた悪い虫をとって食べていたのです。
鵜のむれは、それから毎日のようにウマのところへやってきて、からだについた悪い虫を取ってくれました。
それがウマにはとても気持ちがいいようで、ウマは鵜たちが谷底へやってくるのを待つようになりました。
鵜のほうも、ウマの所へくるのが楽しみのようです。
里の人たちは心をなごませながら、毎日ウマのところへエサを運んでいきました。
ところがしばらくすると、里の人たちが首をかしげるようなことがおこりました。
ウマのおなかが、日ごとに大きくなってきたのです。
「がけから落ちる前に、このウマは子どもをやどしておったのじゃろうか?」
「からだが思うようにならんのに、子どもを産むことができるのか?」
里の人たちは心配しましたが、それからまもなく、ウマはぶじに子ウマを産みました。
子ウマは鵜の羽のようなまっ黒の美しい毛をかがやかせながら、元気に育っていきました。
やがてこの子ウマは、里から殿さまのところへおくられて、すばらしく足の速い名馬として世に知られたという事です。
おしまい
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